見出し画像

【読書メモ】デューイ読書会!:『経験と教育』(ジョン・デューイ著)

LDC同期の有志メンバーでデューイを読みました。修了した後でも基礎的なテクストをガチで読み込むコミュニティの一員であることは本当にありがたいです。企画してくださった海野さん、ありがとうございました!!

私が担当した第3章は、経験についての考察がいかにもプラグマティズムの思想の流れで論じられている、個人的には最も好きな章です。並行してキャリア・アダプタビリティをまとめているのですが、提唱者であるマーク・サビカス先生は、ご自身の理論の背景に社会構成主義があるとしています。その社会構成主義に影響を与えている一つの思想がプラグマティズムであり、その中心的存在の一人であるデューイの本書を読むと、サビカス先生の理論的背景の理解も進んだ気がします。

現在の経験が将来の経験を生む

本章を読んで改めて実感したことは、デューイがのちの経験学習に与えた影響の大きさです。以下のスライドをご覧ください。

デューイが述べていることは、松尾先生が名著『成長する管理職』で述べられている経験の連鎖と瓜二つに私には思えます。松尾先生は同書のp.170において、若い時分において挑戦的な経験に身を投じることでその後における経験の好循環に入ることができることを述べられています。先行する経験が、後続する経験に影響を与えているというわけです。

Theプラグマティズム

このように、経験というものを現在から将来に向けたベクトルとして捉える思想こそがプラグマティズムです。

デューイが1925年に書いた論文「アメリカにおけるプラグマティズムの展開」は、『プラグマティズム古典集成』の第11章として所収されています。その中でデューイは、アメリカにおいて受容されたプラグマティズムの考え方の特徴として、①行為は媒介物であること、②未来を見据えた行為帰結主義であること、③アメリカ文化と結びついていること、の三点を挙げています。

プラグマティズムの主導的人物の一人であったデューイが、教育と経験を語っている背景にはプラグマティズムが色濃く反映されていると考えられるのでしょう。

経験の連続性と相互作用

デューイは、本章での鍵となる考え方は、経験の連続性環境と個人との相互作用にあるとしています。

そのうえで、両者の関係性について、経験の連続性=縦相互作用=横、というように両者は相補的なものであるとしています。本書のターゲットが教育であることを考えると、両者を結びつけて捉えることによって、子どもたちの人格の統合を図ろうとするためにデューイ学校を設立したと推察できるのかもしれません。

ヴィゴツキーとの違い

読書会でデューイの思想について触れていると、次第に気になってきたのがヴィゴツキーレイヴ&ウェンガーとの位置付けについてです。これまでもいくつもの授業や書籍で学んできたはずなのですが、今回、デューイにのめり込んでいたらふと気づきました。

まずヴィゴツキーは、デューイ(およびプラグマティスト)を批判的に捉えています。デューイは、経験の連続性という言葉をキーワードにしているところからわかるように、過去・現在と蓄積してきた経験を踏まえて将来において価値があるものとして活かそうという過去→現在→未来というベクトルで捉えています。

他方で、ヴィゴツキーの発達の最近接領域の考え方に従えば、将来→現在というベクトルで捉えているのです。将来において必要な状態性を考えた上で、現在において友人・先輩・先生と一緒に協同することで「できる経験」を積み、将来において一人でできるようになるという考え方をとるわけです。現代のビジネスで言えば、営業同行やメンタリングのようなものと言えるでしょう。

レイヴ&ウェンガーとの違い

その後に登場するのがレイヴ&ウェンガーです。レイヴ&ウェンガーは、「ベクトルの違いとか言ってるけど、デューイもヴィゴツキーも内外の相互作用によって内的な変化を捉えているという点では一緒だよね。」と否定しています。(註:私のざっくり理解に基づいて書いている内容であり、レイヴ&ウェンガーはこのようなことは言ってません)

その代わりにレイヴ&ウェンガーが打ち出したのはLPP(Legitimate Peripheral Participation:正統的周辺参加)です。つまり、個人の内的な変化にのみ焦点を置くのではなく、個人の変化とともに参加するコミュニティの変化をも焦点に置くべきだ、としているわけです。このあたりの現代ビジネスとしては、CoP(実践共同体)とか越境なのでしょう。

個人ではなく共同体までを対象に置いたLPPはすごいなとも思いつつ、でもLPPのプロセスは相互作用なのでは?と少々モヤモヤしており、この点はもう少し整理したいなと思っています。健全なモヤモヤが出てくるのは読書会の醍醐味ですねー。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?