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【論文レビュー】2020年代の日本企業の中途採用はどのようになっているのか?:労働政策研究・研修機構(2022)

本論文では、かつては終身雇用とまで言われて称揚されていた(今も?)日本企業の長期勤続システムについて焦点が当たっています。中途採用が日本の雇用社会に定着しつつある中で、長期勤続システムにどのような影響があるのかについて考察されています。

労働政策研究・研修機構. (2022). 「長期勤続システム」の可能性―中途採用と新規事業開発に着目して―. 労働政策研究報告書. No.220.

ホワイトカラーの長期勤続効果という未踏の地

長期的に雇用されることによる従業員の習熟については小池和男氏の一連の知的熟練に関する研究群が有名です。本論文では、製造現場における知的熟練については研究が蓄積されてきた一方で、ホワイトカラーにおける長期勤続によるパフォーマンス発揮についてはこれまで明らかにされてこなかったと喝破します。

梅崎(2021)が指摘するように、ホワイトカラーにおいてはキャリア研究の蓄積が進む一方で、彼らの生産性について正面から取り組もうとした議論はほとんど行われてこなかった。つまり、現在においても、ホワイトカラーにおいてブラックボックス化されていた事柄は、そのまま残されていると言える。

p.4

つまり、日本企業のホワイトカラーのパフォーマンス向上や能力発揮についての研究が未成熟である状況では、ホワイトカラーの生産性向上に関する議論を行う下地が未整備であるという問題意識から本研究がなされていると言えます。

そこで、ホワイトカラーの生産性に関する議論の下支えとして、現代の日本企業のテーマとしても挙げられているもののうち、①中途採用の現状②新規事業開発における人事管理の実態の二点について取り上げています。以下からは私の興味・関心が強い①についてまとめます。

「転職者」の定義にご注意を

まず、「転職者」に関する政府の各統計調査について整理しています。同じ「転職者」という概念を用いていても各種調査によって定義が異なるので要注意です。主なものとして総務省および厚労省の三つの調査がありますが、それぞれ定義は以下のように異なります。

p.24

こうして整理してくださるのは大変ありがたいです!正社員と非正社員とを含めた全体感であれば総務省の労働力調査が適していますし、他方で本論文のように正社員のホワイトカラーに焦点を絞っている場合には厚労省の雇用動向調査が参考になると言えそうです。

中途採用のリアル

では、ホワイトカラーの中途採用はどのように行われているのでしょうか。2019年8月から2021年11月にかけて20社(うち18社は1,000名以上の従業員数の企業)に対するヒアリング結果では、どのような手法で中途採用を行ったのかの比率が明らかになっています。

p.59

人事部門にいると、リファラル(社員紹介)が増えていてエージェント経由に近くなっているようにも思えるのですが、依然としてエージェントよりも少ない状況です。その中でも注目すべきなのは、一般職よりも専門職や管理職において増えてきており、特に管理職でのリファラル採用は高い数値になっています。より高いポジションほど既存社員の人脈を通じた採用において活用されている、ということのようです。

また、ヘッドハンティングについては専門職のみで数%が出ている程度のようでした。もちろん、一般においては管理職でもヘッドハンティングがあるケースは認識しているので、あくまで20社でのヒアリング結果に過ぎません。

ただ、管理職においては生え抜きの育成を重視して自社にいないエキスパートやスペシャリストのポジションには外部のヘッドハンターを用いて雇用している、という著者たちの論には傾聴すべきものがあるように私には思えます。

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