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【論文レビュー】何が個人のアンラーニングを促すのか?:Matsuo (2018)

アンラーニングという言葉はビジネス場面でも2000年頃からしばしば使われるようになりました。その重要性は理解されながらも、何によってアンラーニングが促されるのかという個人単位での実証研究はほとんどなされてこなかったそうです。本論文では、松尾先生が実証研究をもとに何が個人のアンラーニングを促進するのかについて明らかにされています。

Matsuo, M. (2018). Goal orientation, critical reflection, and unlearning- An individual‐level study. Human Resource Development Quarterly, 29(1), 49-66.

結果図

本論文で明らかになっているのは、①アンラーニングに影響を与えるものは批判的内省であり、②批判的内省に影響を与えているのは内省と学習目標志向があり、③内省には学習目標志向と業績目標志向が影響を与えている、という関係性です。図で見た方がわかりやすいので以下に示します。

p.59

内省と批判的内省

冒頭で述べた結論はとても興味深いものですが、ふんふんと理解するだけではもったいない内容です。例えば、SEMの図の真ん中に焦点を当てますと、Reflection(内省)Critical reflection(批判的内省)に影響を与えていることがわかります。言い方を変えれば、内省と批判的内省とを松尾先生は分けて捉えているということです。

では両者をどのように分けて考えれば良いのでしょうか。

These studies suggest that critical reflection represents a higher level of reflective thinking than reflection because the former enables us to transform our meaning framework (Kember et al., 2000).

p.52

先行研究の段階で、批判的内省は私たちの捉える意味枠組みを変えることまで含むレベルのものであり、内省よりも深いレベルの概念であると言及されておられます。実際、結果図をよく見ていただければ、アンラーニングへポジティヴな有意な関係が見出されているのは批判的内省ですよね。

本論文を基に松尾先生が出版された『仕事のアンラーニング』では、内省は「仕事上の目標・方法・アプローチを見直し、修正している」(p.58)ものであるのに対して、批判的内省は「自分の中で「当たり前」となっている信念や前提を根本的に問い直している」(p.58)とKember et al. (2000)を基に内省の深さの違いについて解説されています。

学習目標志向と業績目標志向

もう一つ興味深いのは学習目標志向(Learning goal orientation)業績目標志向(Performance goal orientation)とが、内省や批判的内省に与える影響の相違点です。

もう一度、結果図を見てみてください。学習目標志向は内省と批判的内省のどちらにも影響を与えているのに対して、業績目標志向は内省にのみ影響を与え、その度合いは学習目標志向よりも低いことがわかります。つまり、学習目標志向の方が業績目標志向よりも、内省および批判的内省を通じてアンラーニングに影響する度合いが強いということが読み取れるわけです。

先述した『仕事のアンラーニング』では、学習目標志向は学びを重視するものであり、他方の業績志向は周囲からの承認を重視するもの、というように解説されています。批判的内省のレベルにまで影響を与えるためには、他者起点ではなく個人起点での深い学びが大事なのかもしれません。

研究上のマニアックな備忘録

基本的には上記までで内容は終わりで、この段落は私の今後の研究に活かすための備忘録です。本論文ではコモンメソッドバイアスが生じることを防ぐために社会的望ましさ尺度を測定しています。具体的には、Paulhus (1991)から6つの項目を用いて、内省、批判的内省、アンラーニングに対する統制変数として活用されています。

最後のマニアックな段落は読み飛ばしていただいて大丈夫ですが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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