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【読書メモ】エンプロイアビリティの概念的検討:『働く人のためのエンプロイアビリティ』(山本寛著)第2章

エンプロイアビリティという概念は、時代を経るにつれて多様な角度から捉えられるようになり、いろいろな意味合いを持っています。本章では、それらを一つひとつ解説されています。以下では、近年、組織行動論の観点から捉えられてよく活用されるようになっているエンプロイアビリティ知覚に焦点を当ててポイントをまとめます。

Perceive=知覚≠認知

エンプロイアビリティは、従来は本人の主観的評価ではなく、他者や組織によって評価されるものとして位置づけられていました。これは、第1章の歴史的経緯にも符合するもので、国家レベルでの完全雇用、組織による柔軟な異動・配置といった観点と整合的です。

他方で、近年では社員の組織行動の観点からエンプロイアビリティがとらえられるようになり、概念が拡張してきています。そこで登場したのがPerceived Employabilityです。

この「perceive」について著者は、知覚認知とで切り分けて精密にとらえるべきであると、以下のように詳説されています。

認知は一般にいう解釈を意味し、本人の対象に対する価値判断(好き嫌い、重要・重要でないなど)の影響を受ける。それに対し、知覚は対象に対する状況記述的な判断であり、評価を含まない。これらの点から、エンプロイアビリティ知覚は、主観的ということはいえるが、価値判断の混入が少なければエンプロイアビリティを測定する手段として使えることになる。

59頁

つまり、エンプロイアビリティ知覚(Perceived Employability)は、本人評価でありながらも、価値判断をしない知覚として測定できる、というわけですね。これはなかなか興味深い考察と思います。

背景①キャリア自律

もう少し、エンプロイアビリティ知覚が必要になってきた背景についてまとめます。著者は、二点を取り上げています。

一つ目はキャリア自律です。日本でもキャリア自律という概念がビジネス界隈でも浸透しつつあります。キャリア自律では、自ら主体的にオーナーシップを持ってキャリア開発を行う、というスタンスが求められます。つまり、自身が携わる職務経験の連なりとしてのキャリアをデザインするために、他者評価や組織評価に依存するのではなく、自らが知覚することが必要になってきています。そうしたときに、Perceived Employabilityという捉え方が求められてきている、ということでしょう。

背景②客観性の揺らぎ

二番目の背景は、エンプロイアビリティは客観評価とされてきたけれども、本当に客観的に測れるの?という疑問が高まってきたということです。言われ古されてますが、VUCAの時代において、職務に求められる要件が変化し、職務自体も変化します。そういった中で、客観的な雇用される能力なるものがどれだけ測れるのか、という点からエンプロイアビリティ知覚が重視されるようになってきた、ということのようです。


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