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【ワイクを読む!(8/9)】保持と組織化:『組織化の社会心理学[第2版]』(カール・E・ワイク著)

本書はどの章も難解ですが、本章はダントツに理解できる箇所が少ないです。あまりにわからなすぎるので、著者and/or訳者にも問題があるに違いないと開き直って、ポイントを二つに絞って書いてみます。

保持とは何か

ワイクは、保持についてウィリアム・ジェイムズを引いて以下のように概説しています。

経験の保持とは、経験をその時の状況とともに思い浮べる可能性や思い出しやすさの別名にすぎない(268頁)

つまり、保持とは持ち続けるという動作を意味するのではなく、ある時点において特定の事象を思い出すことができるという状態性を意味するということなのでしょう。

孫引きではありますが、ウィリアム・ジェイムズについては、以前、漱石と比較して論じられている岩下弘史先生の『ふわふわする漱石 その哲学的基礎とウィリアム・ジェイムズ』『プラグマティズム古典集成』を集中的に読んだので、それほど間違っていないと一旦ご容赦ください。汗

組織における保持の機能

組織に参加する人々は、組織が生き残ろうとする中で人々も生き残ろうという意思を持つものです。そのために、組織に適応しようとします。

適応している組織のメンバーは、反対し、議論し、矛盾し、信じず、疑い、偽善的に振る舞い、即興的、逆らい、懐疑し、差異化し、挑戦し、ためらい、質問し、傷つけ、論駁し、暴露する人として描かれる。こうした行為すべてはアンビバレンスー柔軟性と安定性という両立し難い要求を扱うのに最適な方策ーを具体化したものである。(298頁)

引用文中の「即興的」の部分は、前後の関係から動詞のはずだから明らかに誤訳だよなぁと思いながらも、原文を読む気力はないのでここでは触れません。ここで興味深いのは、組織に適応する=なんにでも賛成する、という描き方ではなく、むしろ組織に反対しているかのような志向性をも有するという点です。

これは、好意的な感情を抱いている対象に対してあえて冷たい態度を取るという、反抗期の中学生が取りがちな行動のことなのかもしれません。私自身は、中高生の時分も含めて、そうした複雑で繊細な感情を持ち合わせてこなかった単純な人間なのでよくわからないのですが。

組織に対するアンビバレントな感情と捉えれば、熱狂的な野球ファンこそが、贔屓のチームの選手がエラーした時に強烈な野次を飛ばす、ということを指しているのかもしれません。これが、組織における保持の機能、なのではないでしょうか。


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