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【論文レビュー】日本企業でキャリア自律はどの程度定着しているのか?:藤本(2018)

キャリア自律という言葉は、日本企業でもそれなりに耳にするようになってきた印象があります。少なくとも、日系の大企業であれば謳い文句として用いているところは多いでしょう。では、どの程度運用レベルで定着しているのでしょうか。本論文ではデータに基づいて検証していて、興味深い発見事実を提供してくれています。

藤本真. (2018). 「キャリア自律」 はどんな企業で進められるのか- 経営活動・人事労務管理と 「キャリア自律」 の関係. 日本労働研究雑誌, 60(691 特別号), 115-126.

個別化人事と長期育成志向

人事制度には公平性公正性が求められ、また大手の日本企業では(制度が変わったとしても)年功的な運用がなされることが多いため、本社人事部門の対応は十把一絡げ的なものになりがちです。これが悪いとは必ずしも言えませんが、キャリア自律の促進という観点ではネガティヴに働きかねません。

このような肌感を本論文では検証結果として明らかにしています。具体的に言えば、キャリア自律が促進されるケースとして、①企業が個別化人事管理を行っていて、かつ②長期育成志向を持っている場合であるとしているのです。つまり、制度および運用として多様な社員に対して個別的な人事管理を行う志向性が高く、かつマネジャーがメンバーを長期的に育成する志向性を組織として有している場合に、社員のキャリア自律が進展する、と結論づけていると言えます。

制度とキャリア自律

では、キャリア自律を促進している企業と、そうでない企業とではどのような制度の差異があるのでしょうか。

p.117

この表の見方は少し小難しいかもしれませんが、要は、カイ二乗独立性検定で有意に差があり(「*」や「+」のマークがある)、導入度合いが50以上である項目に着目すれば良いでしょう。

上記の条件を当てはめれば、自己申告制度を導入しているか、MBOの中でキャリア目標を設定しているか、マネジャーによるキャリア面談を導入しているか、研修情報を社員に提供しているか、がキャリア自律を促進している企業とそうでない企業との差であると考えられます。キャリア自律を促進しようとする企業においては、こうした点を考慮すると良いようです。

企業の規模に差はない

個人的に興味深かったのは、キャリア自律を促進しているかどうかという観点では、企業規模に差がないという点です。

p.116

上の表を見ていただければ上記の結論はお分かりいただけるかと思います。ただし、300名未満の企業は調査対象になっていないので、規模が小さい企業ではやはりキャリア自律を促進する企業は少ないかもしれません。企業内のキャリアパスを用意することが難しいですので。

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