見出し画像

人事制度が組織風土を創る。:花田(1987)論文レビュー

ここしばらく、ひとや組織のイシューをソフトな側面から眺めがちだったのですが、ハードな側面からも見たいなと思っています。人材開発と組織開発は車の両輪でどちらも大事という考え方に納得しつつ、車が通る道路を整備することも大事だよね、ということで制度にも興味が向きつつあります。

きっかけは以下のブログで述べたので割愛します。

上のエントリーでも書いた通り、読むと再び気力を失うかなと不安だった論文を今回は扱います。人事制度に向き合うならばこれも一種の通過儀礼だと腹を括り、以下の論文を改めて読み返しました。

花田光世(1987)「人事制度における競争原理の実態」『組織科学』vol.21 No.2

打ちひしがれて何も書けなくなる前に、考えたことをざざっと書きます。

先生の問題意識はなんだったのか。

読み返してみて印象的だったのは、花田先生がこの論文を執筆した際の問題意識です。本論文の発行年は1987年。つまり、調査はバブル真っ盛りの時代に行われていたはずです。日本企業の経営がもてはやされ、企業戦士は当たり前のように二十四時間闘い続けていた、あの時代です。(と書いてますが、幼少期なので知りませんけども)

それにも関わらず、先生は、日本的経営の三種の神器による人事管理システムを異なる側面から捉え直して警鐘を鳴らしています

日本的経営がもてはやされ、終身雇用制度と日本的な人事の仕組みのメリットが強調されていた時期においても、日本の大企業の人事制度の実態、とりわけ、昇進・昇格システムにおいては、安定的雇用と年功昇進とは異なる厳しい競争原理が働いていたのではあるまいか。そして、それらはむしろ日本的経営の三種の神器の表面的賛美の影に隠されてしまっていた可能性も存在しているのである。(Ⅰ.序論)

一億総中流社会と言われ、分厚いミドル層の所得向上が国内消費に転嫁して経済発展が続く中での日本企業の平等主義神話は本当だったのか、というわけですね。結論から言えば、先生は、昇進・昇格のプロセスをCareer Tree分析によって明らかにし、データから日本企業における競争原理を提示しています。つまり、日本型伝統的大企業における平等思想は神話にすぎず、早い段階から選別がなされていたことが明らかになっているのです。

日本型伝統的大企業における昇進と人事制度の関係

つまり、先生の重厚長大な議論を一文で要約するとしたら、初期の昇進競争から将来の昇進度合いを予測でき、それぞれのキャリアパスに対応する人事制度を日本企業は用意してきた、ということです。先生から笑顔で「まだまだだね」と言われそうですが、現時点での僕は、以下の図と論考を読んでこのように解釈しました。

画像1

画像内のメモ書きは、僕が学生時代に書いたものです。消そうかとも思いましたが、せっかくなので(?)そのまま残しています。

大量新卒採用型は高頻度に選別して意欲維持

各社のCareer Treeを眺めていると同じようなものが続きます。日本の大企業とステレオタイプに捉えれば、同じように見えます。以下の図も、僕だったら決して怪しみながら見られなかったと思います。

画像2

ところが先生は、流通業界に見られる大量新卒採用型のCareer Treeは、他の伝統的日本企業とは異なると分析しています。いわく、抜擢を頻繁に行い、優秀社員のモラールダウンを防いでいるというわけです。

僕が2007年頃に書いたメモによれば、「短期的な成果を評価する」という運用がその肝であると解釈できます。短期的な業績結果が誰から見ても分かりやすいビジネスを展開する企業では、言葉は悪いですが、大量に社員を雇用して篩にかけるという短いスパンでの選抜を行ってきたと言えそうです。

イノベーションを重視するには加点主義で評価

さらに面白いのが、革新的企業というラベルが貼られた企業での図です。「あの企業の人事制度は革新的だ!」ということは簡単ですが、それをデータで示すことは難しいものです。しかし、以下の図を見てみてください。

画像3

ここまでの企業が最初の選抜のタイミングで一次選抜に入っていないと出世競争のトップランナー群に入れなかったのに対して、この企業では敗者復活が制度で担保されていることが分かります。ここまできれいに可視化できることに、研究の美を感じると書くと言いすぎでしょうか。言葉を尽くさずとも伝わるモデルに驚嘆します。

敗者復活ができる制度の勘所は加点主義にあるのではないかと考察されています。つまり、第一次選抜から漏れないように余計なことをして減点されないようにするのが伝統型企業であるのに対して、革新的企業では革新的な言動を加点主義で評価していることが推察されるのです。

人事制度は組織風土に(良くも悪くも)影響する

こうして考えると、人事制度によって、職場における業務遂行に影響を与え、組織風土を中長期的に形成するという流れが見えてきます。言い方を換えれば、人事制度にはそれだけのパワーがあるわけであり、場当たり的な制度変更はネガティヴな影響を与えかねません。

制度の変更は必ず、様々な点に影響を与えざるを得ない。(Ⅵ.考察)

先生のこの警句を企業人事として意識したいものです。

今の時代にどう活かすか

2020年の現在で考えると、ポストに対する競争は限定的なのではないでしょうか。管理職を希望しない若手社員が取り沙汰されるように、ポストの誘因は減少しているのでしょう。

現在、社員が獲得競争しているのは職務経験です。その結果指標は、企業に閉ざされたポストとして捉えるのではなく、市場におけるエンプロイヤビリティ(被雇用者能力)なのではないでしょうか。調査するために、この両者をどのように変数化するかが考えどころなので、自分の頭で考えてみたいところです。

あとがき

書くためには何度も論文を読み返すわけでして、終わりに近づくにつれて打ちひしがれ感がひたひたと増してきています(笑)。打ちひしがれるのは具体的には以下のようなことです。

表面(バブル景気)の裏側にあるシステム(人事制度)への問いが秀逸であること。人事制度を説明変数に、昇進に要した年数を結果変数として、問いを変数化していること。帰属意識調査という先生が以前から行っていた調査と関連させて、人事制度が帰属意識に影響を与えているという示唆を提示していること。

いずれも、研究者としてなぜここまでできるの?と思ってしまいます。加えて、先生がこの論文を書いた時の年齢は、手元で計算すると今の私の年齢と同じ…。これ以上書くと気力がゼロになりそうなのでこの辺りにして、年が明けたらきれいさっぱりと都合よく忘れようと思います。

みなさま、よいお年をお迎えください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?