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【読書メモ】「年齢が高い=組織コミットメントが高い」という神話の虚構:高木浩人著『組織の心理的側面 組織コミットメントの探求』(5/8)

第5章からは組織コミットメントに関する実証研究が扱われます。本章では、年齢勤続年数との関連について、先行研究をレビューしながら存続的コミットメントから明らかにしています。

まず本書の執筆年を意識する必要があるでしょう。本書が書かれた2003年は、ネットバブルが崩壊し、日本のIT企業大手を中心にリストラが叫ばれていた時代です。つまり、雇用の流動化が本格的になり、終身雇用が実質的に終わりを迎えたことが多くの社会人にとってなんとなく感じられる時代でした。

こうした時代を念頭に置き、年齢や勤続年数が働く社員のコミットメントとどのように関係するのかが検討されたのです。

いま現在わが国で起こっている雇用構造の変化は、犠牲に基づくもの、選択肢の少なさに基づくもの、いずれの存続的コミットメントをも高めにくい方向に作用するのではないかとの仮説が成り立つ。(119〜120頁)

存続的コミットメントとは、組織コミットメントの下位次元の一つで、ざっくり言えばその組織に残るメリットがあるからコミットするというものです。転職することが当たり前になれば、必要以上に所属する企業にコミットすることにメリットがあるとは感じられなくなります。雇用流動化は存続的コミットメントを高めづらくする、という上記の仮説はこうしたことが背景にあると言えます。

しかしながら、全ての社員にとってこのような仮説が成り立つとは限らず、留意が必要であると著者はしています。

専門的な能力や技能を身につける人が増えるだろうとは言っても、誰にでもそれができるわけではない。以前よりも企業間の人材の移動が活発になったとしても、今後も引き続き1つの企業に長期にわたって勤続する人が相当数に上ることは明らかである。(120頁)

専門性の必要性が叫ばれている現在(2021年)を予期するかのような著者のメッセージと言えるでしょう。日本の大企業において、専門性が乏しく、所属企業を離れたら通用しないスキルしか持たない人材が多いことは、残念ながら、パナソニック社の直近のニュースでも明らかと言えます。

本章でのメタ分析によれば、存続的コミットメントは年齢とは関連がないとされています。その一方で、勤続年数とは一定程度の関連があります。

ある企業での勤続年数が長くなれば、社内における人脈形成が促進され、その企業独自の言葉や考え方に精通し、発揮できる能力は高まるとも考えられます。こうした考え方は、「三種の神器」が通用するような特定の大手企業では通用するのかもしれませんが、圧倒的多数の人にとっては通用しないのでしょう。

また、パナソニック社で起きたことを考えれば、現在で通用しているかに見える企業においても、一年後にも通用するとは言い切れません。存続的コミットメントを基にして、在籍することにメリットを感じるサイドベット理論の再考が求められるとする著者の指摘にしっかりと耳を傾けるべきでしょう。


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