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【読書メモ】(1/8)組織のなかの人間心理:『組織の心理的側面 組織コミットメントの探求』(高木浩人著)

組織で働く人の心理に焦点が当たったのはホーソン研究であると言われます。本書のタイトルにもある心理的側面への着目について、ホーソン研究にも深く関わっているメイヨーの考察から本書は始まります。

ホーソン研究とはなんだったのか

1927年から1932年までの約五年間をかけてウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた一連の研究では、物理的な作業条件が作業の能率性にどのような影響を与えるかが研究目的でした。しかしながら、作業条件ではなく人間の社会的な関係性が作業の成果に影響を与えていることが発見された研究として有名です。

メイヨーらの発見事実には、人間関係の重要性以外にも、①意思決定への参加、②規範の形成、③凝集性、④援助行動という四つの重要な指摘があったと著者はしています。

①意思決定への参加

ホーソン工場で働く多くの人々は、組織における重要な意思決定に参加できるという感覚を持つことができていたようです。この結果を踏まえて、事後の職場における心理学的な調査の結果から、意思決定への参加が個人の満足度を高めて決定に対する責任感にも影響を与えることが明らかになっています。

②規範の形成

次にホーソン工場の職場では、自分たちで規範を作成している様子が観察されたそうです。たとえば、一日の一人当たりの生産数量を中長期的な組織目標を基に自分たちで設定し、自分たちでフィードバックをし合うという現象が生じていました。こうした他者からの影響を社会的影響(social influence)と呼び、組織行動へと反映されます。

③凝集性

凝集性とは、孫引きで大変恐縮ですが、「メンバーが集団にとどまるように働きかける力の総体」(フェスティンガーら 1950)という定義で本書では紹介されています。一般的に、凝集性が高い、つまり組織の構成員の意識や行動傾向が近くまとまりの良い状態の方が望ましいと言われますが、必ずしもそうではありません。実際、凝集性と生産性の関連については一貫した関係は見出されていません。そうした留保はありながらも、凝集性という概念が組織を観察する上で重要であることは間違いないでしょう。

④援助行動

他者の手助けを行う援助行動が生じるには前提条件があります。たとえば、職場内で社会的な繋がりがあると感じられたり、凝集性が高い時などに援助行動が生じやすくなります。つまり、援助行動と感情や人間関係は密接な関連があるということです。

あとがき

本書の冒頭にとてもカッコいいなと思わせる箇所がありました。最後に引用して終わりにします。

 組織のなかの個人を、単に管理され、生産性を高めることを求められるだけの没個性的な対象としてみるのではなく、個々に個性、感情や情緒をもち、それを組織にも持ち込んで振る舞う存在としてみるのである。本書の根底には、そういった人間観がある。(3頁)


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