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【徹底解説】キャリア・アダプタビリティの起源(3)適応:Savickas(1997)

前回の徹底解説シリーズでは、スーパーが提唱したライフスパンとライフスペースの可能性が説明され、理論として充分に両者が統合されていない課題と、学習や意思決定といった概念は方向性として合っているけど統合できない現状認識が示されました。では何によって統合できるかというと、適応(adaptation)だ!というのがサビカス先生の主張です。

Savickas, M. L. (1997). Career adaptability- An integrative construct for life‐span, life‐space theory. The career development quarterly, 45(3), 247-259.

学習や意思決定は適応の一部

学習や意思決定といった概念を前節で提示していたのは、両者を批判するのではなく、方向性そのものは合っていると提示することが目的だったのでしょう。その上で、適応が統合する概念として優れている理由を端的に示しています。

Learning and decision making are components of adaptation.
(ざっくり和訳)
学習や意思決定は適応の一つの要素である。

p.253

小気味よい言い切りです。学習も意思決定も適応の一要素なのだから、ライススパンとライフスペースの領域を統合する概念としては適応を使った方がいいでしょ、ということです。上記の一文を含む一段落には引用がなく、その後の2段落も含めた本節全体にも一切の引用がありません。適応の可能性に対するサビカス先生の想いが溢れ出ている箇所と言えそうです。

職業心理学のレリバンス

この後もサビカス先生は、適応が統合する概念として優れている理由は説明します。

Adaptation seems like a particularly appropriate construct for bridging theory segments because of its great relevance to vocational psychology.
(ざっくり和訳)
適応は、理論のセグメントを架橋する構築として、その職業心理学との強いレリバンスのために特に適切であるように見える。

p.253

さらにはラテン語での語源を引いて説明します。

The root of the word adaptation is apt, meaning quick to learn or understand, a root meaning already used in the career construct of aptitude.
(ざっくり和訳)
adaptationという単語の語源は、素早く学んだり理解したりするという意味のaptであり、この語源はすでにキャリア構築の適性として使用されている。

p.253

特にこの箇所は、引用なしで提示できるのはスゴいですね。私のような素人が真似すると痛い目に遭いそうな気がします。

個人と環境との相互作用

キャリアに関する概念には個人と環境との相互作用が含意されるということは渡辺先生の編著である『キャリアの心理学』でも言われていることです。キャリアという概念にこのような点が内包されるとはいえ、サビカス先生によれば適応という概念は両者の相互作用をより強く強調しているようです。

Furthermore, adaptation emphasizes the interaction between the individual and the environment. This shift in attention from the individual to the individual-in-situation coincides with contextual and multicultural perspectives on work.
(ざっくり和訳)
さらに言えば、適応は個人と環境との相互作用を強調する。このような個人から状況に埋め込まれた個人への着目点の移行は、仕事における文脈的で多文化的な観点と同時発生的に生じたものである。

p.253

仕事を取り巻く環境が多様で複雑で多文化的であるという現代のビジネス環境を考えれば、適応に着目することの重要性は増しているとサビカス先生は捉えているのでしょう。

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