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組織アイデンティティとは何か。:『集団と組織の社会学』(山田真茂留著)を読んで

社会学では、組織と集団という、ともすると「まあどっちを使ってもいいか」となりがちな二つの概念をしっかりと定義しています。本書も同様です。

冒頭の「はじめに」において、集団を「一定の境界によって区切られた人々と彼らが繰り広げる相互作用や関係から成り立つ独特な意味空間」とし、組織を「集団のうち、目的志向を持ち、それに応じて権力関係と分業関係が分化した機能集団」としています。つまり、ベン図で言えば、集団という概念が組織という概念を含むという関係性です。

本書では、集団がタイプごとに特徴付けられ、それが近代において組織としてどのようなメリットとデメリットをもたらし、組織文化論に結実したのかが述べられます。企業文化から組織文化への機能主義的アプローチの流れと、それに対する解釈主義的アプローチとしての新制度組織論については、著者と佐藤郁哉さんとの共著を扱った際に詳述したのでここでは割愛します。

ここで取り上げたいのは組織アイデンティティ論です。著者は、企業文化・組織文化・新制度組織論を一章にまとめて扱った後で、章を改めて組織アイデンティティ論に当てていますので、おそらく力点を置きたいと考えられ、実際に面白い章です。

集団ではなく組織

まず冒頭でも述べとおり、集団アイデンティティではなく組織アイデンティティという言葉を使っています。したがって、ここでの対象は目的志向を持ち権力や分業の関係を有する、いわゆる企業組織のようなものを思い浮かべれば良いでしょう。

アイデンティティとは

次にアイデンティティという言葉の含意を見ていきます。個人におけるアイデンティティ論で有名な研究者にエリック・エリクソンがいます。本書では、エリクソンを引きながら、多様な価値観を内側に持ち、それらが矛盾しながらも一つの総体として認識するものとしてアイデンティティを捉えています。

組織アイデンティティとは

このプロセスには二つの要素が相互に影響を与えていると著者はしています。具体的には、存在の独自性としての主語的な「われわれ」という抽象的意識と、表現の独自性としての述語的な「われわれ」という具体的な内容の二つです。このうち、後者は企業文化や組織文化が該当します。

したがって、組織アイデンティティは、客観的な存在としての企業文化・組織文化と、主観的で境界が柔軟な「われわれ」意識との相互作用によって生成される動的な何か、と考えられます。

現代における組織アイデンティティの意義

では著者はなぜ企業文化・組織文化ではなく組織アイデンティティに着目しているのでしょうか。その答えは、現代におけるグローバリゼーションとそれに伴う社会情勢にありそうです。最終章で触れられているように、経済のグローバリゼーションと多元的社会の進展との両立によって、貧富の差の拡大と社会の分断が生じています。昨年末のアメリカ大統領選挙と、その前後におけるさまざまな事象はその典型的な例と言えるでしょう。

組織も同様です。内側にある多様な下位分化は広がっていくでしょうし、働く社員の多様性は増していきます。そうした状態を含めてなんとなく「われわれ」という意識で柔軟に共通意識を持つというダイバーシティ&インクルージョンを組織として捉えると組織アイデンティティという概念は現代的に意義のあるものなのかもしれません。


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