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ジョブ・クラフティング研究はここから始まった!:Wrzesniewski and Dutton(2001)論文レビュー

流行りの概念ほど、大元となっている論文で何が書かれているかを把握する必要があります。というのも、流行する過程のなかで、尾ひれがついて拡大解釈される傾向があるからです。今回は、ジョブ・クラフティング研究の萌芽となったと言われる以下の論文を扱います。

Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review, 26(2), 179-201.

ジョブ・クラフティングの前提として、職務を構築(構成)するという考え方があると著者たちは冒頭で述べます。その土台となる理論として社会構成主義を取り上げ、ケネス・ガーゲンを引用していることからすると、心理学的な観点で社会構成主義を捉えてジョブ・クラフティングを概念づけたと言えるのでしょう。

以前、高尾先生の論文を取り上げた際の再掲となりますが、ジョブ・クラフティングは、「自分の仕事の境界を物理的・認識的に変化させること」と定義されています。

ジョブ・クラフティングの一連のモデルについては、高尾先生が解説論文(高尾(2019)、高尾(2020))で訳出されたものがありますので、ありがたく以下に拝借させていただきます。

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ジョブ・クラフティング以前

職務を捉える枠組みとして、以前は、内発的動機付けの系譜になるHackman and Oldham(1976)の職務特性理論というものが主流でした。職務の特徴を五つの因子で明らかにし、動機付けを行いやすい職務を設計し、それをメンバーに対してアサインするという考え方です。

現代でも一般的であるこうした考え方を、ジョブ・クラフター(ジョブ・クラフティングする人)をマネジャーに限定している、という表現で表しています。それに対して、著者たちは、本来は全員がジョブ・クラフターになり得るものだとして、働く個人の主体性に重きを置いています。

個人の主体性を重視する著者たちは、ジョブ・クラフティングは個人が自由に行うものであり、イノベーションを職務や職場の関係性にもたらす可能性があるとしています。他方で、あくまで個人主体の動きであるために、規則に則った行動から逸脱する危険性もあることを認めています。言い方を変えれば、プラスもマイナスもあり得るけれども、働く個人の自由な創意工夫を重視する思想に基づく性善説の考え方と捉えれば良いでしょう。

誰でもジョブ・クラフティングできることの含意

誰もが実施主体となれるという点は実は非常に大きな含意を為しています。Hackman and Oldhamの職務特性理論によれば、心理の次元として仕事の有意味感・責任の認識・仕事の把握感という三つがあり、それぞれの値の合計値で動機付けの高低が決まるとしています。つまり、職務によっては動機付けをしづらいものがあるという考え方です。

本論文では、職務特性理論の次元で考えれば動機付けられづらい職務が六つほどケースとして取り上げられています。そこでの調査から著者たちは、たとえ職務特性理論によって低い動機付けが示唆される職務であっても、ジョブ・クラフティングが十分に行われている事例を描き出しているのです。

ダイナミックさがジョブ・クラフティングの特徴

職務設計を働く個人自身が行うためには、計画や遂行の段階でも試行錯誤するという動的なアプローチが求められます。また、仕事の意味を見出していくためには、一つの視点に止まるのではなく多角的に捉えて更新し続けるという観点の多様さも必要でしょう。

さらには、職務は一人で完結するものではありません。たとえ、個人で完結できるものであったとしても、他者との関係性の構築・再構築や相互作用を通じて職務に取り組むことが、ジョブ・クラフティングの特徴と言えそうです。


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