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【論文レビュー】人事制度は管理職のプラトー現象にどのように影響するのか?:山本(1999)

プラトー(Plateau)とは高原を意味する英語で、心理学の領域ではたとえば学習行動を続けていても一時的に伸びが緩やかになったり停滞したりする高原状態のことを指します。本論文で扱われているキャリア・プラトー現象は、「現在の職位以上の昇進の可能性が非常に低いキャリア上の地位」(Ference et al. 1977)と定義されていて、管理職がキャリアの進展が今後見られないと認識している状態と捉えられます。

山本寛. (1999). 組織の人的資源管理施策と管理職のキャリア・プラトー現象との関係- 大企業の課長職を対象として. 日本経営学会誌, 4, 28-38.

キャリア・プラトー現象の現代的課題

キャリア・プラトー現象は以前から企業で起きていたものの、その対象となる年齢が低下していることが課題であると著者はしています。このキャリア・プラトー現象の低年齢化には二つの背景があると指摘しています。

第一に日本経済が低成長時代に入ったことで管理職位の不足が生じていること、第二に入社する人材の高学歴化により年功的地位配分が機能不全になったこと、という二点です。この論文の発行年を考えれば、その後に二十年以上が経過しても変わらない問題であると言えます、残念ながら。

しかし、すべての企業で管理職のキャリア・プラトー現象が生じているわけではありません。著者は、昇進・昇格に関連する人的資源管理制度によって管理職のキャリア・プラトー現象に影響を与えると考え、以下のような関係性を想定して、千名以上が在籍する日本の大企業で実証調査を行なっています。

山本(1999)p.30

この図で留意するべきものは、キャリア・プラトー現象には二つのタイプがあるという点です。昇進可能性認知とは、主観的プラトー化とでも呼ぶべきもので個人の認知という主観的側面に関するものです。他方の職位歴は客観的に把握できるものですので客観的プラトー化と呼べます。本論文での調査では、こうした主観と客観の二つの側面で影響関係を見ています。

人的資源管理制度によりプラトー現象が異なる

全般的に捉えれば、人的資源管理制度がプラトー化に影響を与えるということが明らかになっています。しかし、さまざまな制度や慣習によって影響するプラトー現象が異なることを明らかにした点が本論文で着目するべき点でしょう。一覧表としてまとめているのが以下になります。

山本(1999)p.34

統計にあまり詳しくないと読み方が分かりづらいかもしれませんので、極めて特徴的な差異を示している早期退職優遇制度退職準備プログラムの二つを対比的に解説します。

この表によれば、早期退職優遇制度がある組織の課長は、同制度がない組織の課長と比べて客観的プラトー化が進行しているとしています。つまり、課長ポジションについてからの職位の滞留年数が長い組織では、早期退職優遇制度を導入して、マネジャーの代謝を促進しようとしているとも読み取れるわけです。

他方で、退職準備プログラムがある組織の課長は、同制度がない組織の課長と比べて主観的プラトー化が進行していないとしています。退職準備プログラムでは、個人のライフキャリアや財務面でのプランニングを考えるものが多いでしょう。こうしたプログラムによって、将来に対して明るい展望を持ち、停滞感が減少するという効果を有していると考えられます。

このように同じ「退職」に関するプログラムでも、プラトー化については全く異なるインパクトがあることには着目するべきなのではないでしょうか。


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