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【徹底解説】キャリア・アダプタビリティの起源(4)キャリア・アダプタビリティ:Savickas(1997)

今回、いよいよキャリア・アダプタビリティが登場します。適応力やキャリア・アダプタビリティに対してサビカス先生がいかに力点を置いているのかがわかる読み応えのある節をまとめています。

Savickas, M. L. (1997). Career adaptability- An integrative construct for life‐span, life‐space theory. The career development quarterly, 45(3), 247-259.

成熟から適応力への転換

スーパーがキャリアを発達論で語る際に主要な概念に置いていた一つが成熟です。キャリア=職業選択というパラダイムだった時代に、人間の発達から理論化したのがスーパーの画期であったという点は以前のnote(【徹底解説】キャリア・アダプタビリティの起源(1)Superから受け継いだもの:Savickas(1997))で述べました。

ただ、発達を表す際に成熟(maturity)をスーパーは置いたのですが、成熟では青年期の発達を焦点に置きがちで、それ以降の長いキャリアにおける発達を説明しきれないのではないか、というのがサビカス先生の問題意識です。そこで登場するのが適応力(adaptability)という概念です。

Adaptability means the quality of being able to change, without great difficulty, to fit new or changed circumstances.
(ざっくり和訳)
適応力とは、新しい状況や変化する状況に合わせて、大きな困難なく変化できる性質を意味する。

p.254

生涯にわたる発達における適応という観点で適応力は説明能力が高いと言えます。さらに、VUCAと呼ばれて久しい現代において変化への対応という点でも適応力という捉え方が優れているのではないか、というのがサビカス先生の考え方のようです。今を生きる上では納得感があるように感じます。

キャリア・アダプタビリティ

日本における大企業を中心とした長期勤続雇用に対して、アメリカは転職が当たり前の社会だという言説がありますが、決してアメリカでも以前から転職が頻繁であったわけではないようです。そのため、以前においては、青年期における発達としての成熟を説明すればそれ以降のキャリアについてもカバーできていたのでしょう。ただ、青年期の発達だけではそれ以降の長い社会人の時期の説明ができなくなった、というわけです。

The change from career maturity to career adaptability simplifies life-span, life-space theory by using a single construct to parsimoniously explain development in children, adolescents, and adults.
(ざっくり和訳)
キャリア成熟からキャリア・アダプタビリティへの変換は、幼少期、青年期、成人期における発達を簡潔に説明する単一の概念を使用することによって、ライススパン・ライフスペース理論を単純化します。

こうして人生を通じた長い期間を説明できるキャリア・アダプタビリティがキャリア成熟になりかわって使われるべきだ、とサビカス先生は主張しています。説明範囲に関する主張だけではなく、このシフトによってスーパーのライフスパン・ライフスペース理論をより説明できるようになるというように強く主張している点にも注目です。

キャリア・カウンセラーへの提言

サビカス先生はカウンセリングの現場での実践を重視し、そうした実践から概念や理論を紡ぎ出してこられた方です。そのため、現場への提言も惜しみなく書かれています。

A change to career adaptability would focus counselors’ attention on developing readiness to cope in clients of all ages, across all life roles.
(ざっくり和訳)
キャリア・アダプタビリティへの変換によって、カウンセラーは、あらゆる年齢層、あらゆる人生の役割にわたってクライアントに対処する準備を整えることに集中することになるだろう。

p.254

カウセラーの方々にとっての助言として、変化へ対応する準備という点をクライアントに対して行うべきであるとされている点に留意するべきなのではないでしょうか。

当初のキャリア・アダプタビリティの次元の想定

節の最後の部分ではキャリア・アダプタビリティという新しい概念を提示したサビカス先生自身が、今後のこの概念の発展に関してコメントしています。サビカス先生の論文執筆時の想定として、キャリア・アダプタビリティの次元について書かれている箇所があります。

My immediate impression is that planning, exploring, and deciding do seem to be important process dimensions of adaptability.
(ざっくり和訳)
私の即興的な印象では、計画、探索、決定が適応力のプロセスにおける重要な次元であるように見える。

p.255

2012年の尺度開発論文から十数年が経った今読むとなかなか興味深い内容です。サビカス先生は1997年当時にはキャリア・アダプタビリティを行動のレベルで捉えていたのかもしれません。2012年の論文では、関心、統制、好奇心、自信という四つの次元で構成される心理社会的資源を表す概念としてキャリア・アダプタビリティを位置付けておられますので、捉え方が変わったのかもしれませんね。

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