ドラッカーと論語

東洋思想入門 #1 ドラッカーと論語 4/4

学習回路を開くという考え方、および仁についての考察をここまで行ってきました。『ドラッカーと論語』の最後の投稿では、「己を知る」「イノベーション」という二つの考え方について見ていきましょう。

私たちは、ともすると「本当はもっとできるのに任せてもらえない」とか「せっかくいい成果を出したのに見てくれていない」と愚痴を言いたくなる状況に遭います。他者から評価されない、周囲から認められない、という場面は長い人生の中では多いことでしょう。

安富さんは、このような「他者から自分を知られない」という状況への対応について、その前に二つのステップがあるとしています。

まず一つ目のステップは「①真剣に自分を知る努力をする」ということです。他者から何を見てもらうかについて、自身が自身を知る、つまり「己知己」が大事であるとされています。漠然と自分のことを知られていないと嘆くのではなく、まずは自身の何を知ってもらいたいかを自分自身で明確にするということでしょう。

二つ目のステップは「②他人のことを理解することができるようになる」です。多様な自分の内面を理解できるようになることで、対象を理解するための解像度が増します。その結果として、他者の多様な内面をも理解することができるようになり、「己知人」が実現するようになるわけですね。

私自身が、己を知り、他者を知ることができるようになって初めて、他者が自分を知ってくれる可能性が高まります。これが最後のステップである「人知己」です。あくまで起点は自分自身であるというポイントに基づいて以下のように安易なお客様目線に対して警鐘が鳴らされます。

まず自分から始めるというポイントは、自分自身の軸を創ることの重要性を指摘していると捉えられるでしょう。その理由として、自分自身の身体感覚を重視しているわけですが、これは東洋思想入門の第二回で扱います。

己を知ることの重要性を説いた後、己を更新していくことが扱われます。これが二つ目の考え方であるイノベーションです。

学ぶことは自分に閉じたものではないということを「学習回路を開く」で私たちは見てきました。こうした周囲に対して開かれた学びは、フィードバックを得ることで自分自身を新しくしていくことに繋がります。自分自身を絶え間なく更新していくことは、ドラッカーの提唱するイノベーションを意味するというわけです。

このように考えれば、開かれた学習を意識的に続けることが、自分自身を周囲の環境変化に適応させ、他者とともに学ぶ関係性を強化することになります。その結果として、自分が既に知っていることやできることによって慢心するような夜郎自大になることを防ぐことができます。

さらには、何かを学び始めることに遅すぎるということはないことをも意味していると考えられるでしょう。いつまでも学び続けるという継続学習が私たちには求められます。


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