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【論文レビュー】若年期の転職はその後の職業生活にどのような影響を与えるのか?:労働政策研究・研修機構(2022)

転職が増えつつも、まだ日本の雇用社会では浸透しきっていないと言われることがありますし、実際にそのような傾向があるとデータでは言われているようです。雇用に関するいくつかの報告書で言われていることを、転職に焦点を絞ってざっくりいえば、①全体として転職率は増えていない、他方で②若年層については転職率が増加傾向、というトレンドのようです。

労働政策研究・研修機構. (2022). 変わる雇用社会とその活力―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―. 労働政策研究報告書. No.221.

若年期の転職は推奨できない!?

詳細を知りたい方は、公開されている以下の報告書等をご覧になってみてください。

  • 総務省(2020). 令和2年雇用動向調査結果

  • 労働政策研究・研修機構. (2022). 大都市の若者の就業行動と意識の変容. 労働政策研究報告書. No.213.

一方で、若年期に転職を経験した人のその後はどうなっているのでしょうか。この報告書ではこの問いに答える内容がレポートされています。二点ほど紹介しますが、どちらも若年期の転職がその後にネガティヴに影響を与えていることが述べられています。

自己啓発が低い

まず自己啓発の活動を行なっている割合についてです。小さく但し書きが書かれていますが、これは45-64歳を対象とした調査です。その方々が、どの世代で最初の転職をしたのか(あるいは初職に継続勤務しているか)という四つのタイプごとに自己啓発の度合いを調査した結果が以下の表です。

p.26

ここでの結論としては、若い時分に転職を経験した人ほど自己啓発の度合いが低いという結果が出ています。

中高年期の年収も低いが。。。

続いて、同じタイプ別に45-64歳時点の年収を箱ひげ図で示しているのが以下です。

p.26

まず、初職継続とそれ以外とを比較すると初職で継続して勤務している群の方が年収が高いことが分かります。シンプルに考えれば、評価されている人が結果的に初職に残るので昇進して平均年収が上がるということなのかもしれません

次に、興味深いのは、転職経験者の中で相違点です。自己啓発の時とは異なり、40歳以降で転職経験したタイプが最も年収が低いという結果になっています。いくつか仮説が考えられるとは思いますが、以下のような感じでしょうか。

  • 初めての転職が年齢が高い場合にはリスクもあるから

  • 定年前後に転職して給与が下がるケースも包含しているから

Fromの転職とToの転職

本報告書は大変興味深く、いろいろと妄想が膨らみました。おそらく拡大解釈なのでしょうが、学部・修士時代の恩師がおっしゃっていたFromの転職とToの転職の話を思い出しました。

【Fromの転職】とは「今いる環境が嫌だから現状から離れたい」という意向が強いもので、他方の【Toの転職】とは「〇〇の環境にチャレンジしてみたい」という将来志向性が強いものです。もちろん、転職の際にはどちらの側面もあるとは思うのですが、どちらがより強いかを自分自身に問うてみて、【Fromの転職】の度合いが強ければ転職は考え直した方が良い、というのが恩師の話の要諦だったと記憶しています。

転職したことが後の経験につながるということはありますので、転職しようかなぁと思う時は、それが【Fromの転職】の要素と【Toの転職】の要素のどちらが強いものなのかを自問自答すると良いのかもしれません。もしかしたら、若年期の転職がその後の自己啓発や年収にネガティヴな影響を与えているケースは、【Fromの転職】の要素が強いものなのかもなと思いますので。

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