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【論文レビュー】時代とともに意味内容が変わるエンプロイヤビリティの歴史!?:Guilbert et al.(2016)

同じ概念であってもその意味合いは時代とともに変わるものです。本論文では、いくつかの先行研究を踏まえてエンプロイヤビリティの概念の変遷を説明してくれています。

Guilbert, L., Bernaud, J. L., Gouvernet, B., & Rossier, J. (2016). Employability- review and research prospects. International Journal for Educational and Vocational Guidance, 16, 69-89.

エンプロイヤビリティの歴史!?

本論文での著者たちの説明を基に、アメリカにおける年代ごとのエンプロイヤビリティの特徴を簡単にまとめてみました。

1900年代前半

最初にエンプロイヤビリティが使われたのは1900年代前半で、当時は雇用可能な個人が雇用不可能な個人かという経済上の概念として使われていました。

1950年代・1960年代

政治において用いられるものとして使われていた1900年代前半から、その後、意味内容が大きく変わってきました。1950年代・1960年代には、仕事に取り組む態度自己イメージに関して強調されるようになりました。

1970年代

1970年代には、それまでの心理的側面から知識能力といった開発可能なものへと焦点が移ってきています。組織による個人の人材開発というところに関心が移行しました。

1980年代

その後、組織による人材開発から、個人が自ら能力開発を行うことへと移行し、他社でも通用する一般的スキル(transferable skill)へとエンプロイヤビリティの捉える概念も変遷しました。

1990年代

1990年代には、こうした一般的スキルを変化に対応していくために継続的に維持し開発するというものへと意味合いが変化してきています。

日本でのエンプロイヤビリティ受容

日本の学者による研究のレビューはまだできていませんので実務的な感覚になりますが、日本でエンプロイヤビリティがとやかく言われるようになったのは2000年前後で、人事界隈でいわゆる成果主義が盛り上がった時期でしょう。言い方を変えれば、ITバブルが弾けて大手電機メーカーが大規模なリストラが起き、雇用不安が増した時代です。

そのため、日本におけるエンプロイヤビリティの意味合いはアメリカにおける1980年代のものとして受容され、現代では2010年代初頭から言われるようになったVUCAへの対応として1990年代のものへと変化していると考えられます。

エンプロイヤビリティの概念図

ここまではエンプロイヤビリティという概念の歴史についてまとめてきました。その意味内容としては、①政治的・教育的なもの、②組織に関するもの、③個人に関するもの、という三つで表されると著者たちはしています。

概念の歴史と組み合わせれば、初期は①の意味内容であり、その後に②に移行し、1980年代以降は③が強調されてきている、というようになります。そのため、著者たちがまとめている概念図でも、個人(Person)に関する要因関係が多く記述されているのです。

p.80


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