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【論文レビュー】能動的に働くとは?ーープロアクティブ行動の先行要因と効果:尾形(2016)

企業で働いていると「能動的に動くことが大事!」と言われる場面を目にすることがあり、その頻度は増えてきているような気がします。「能動的」 のようなフワッとした言葉を噛み砕くために研究の知見を活かせまして、プロアクティブ行動で説明できるケースが多いように感じます。本論文では、プロアクティブ行動の定義を「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり、未来志向で変革志向の行動」(Grant & Ashford 2008)としています。

本論文ではプロアクティブ行動の内容をもう少し細かく分類した上で、①どのような要因が若年労働者のプロアクティブ行動を動かすのか、②その結果としてどのような効果が生じるのか、という二点を明らかにしています。細かい解像度で明らかにしているため、実務上のヒントに溢れたステキな論文です。こういう論文を書きたいですねー。

尾形真実哉. (2016). 若年就業者の組織適応を促進するプロアクティブ行動と先行要因に関する実証研究. 経営行動科学, 29(2), 3.

プロアクティブ行動とは

プロアクティブ行動の定義は冒頭で述べたとおりですが、著者はその具体的な内容について先行研究をもとに以下の四つの下位次元に分けて説明しています。

  1. 革新行動
    古いやり方などに固執せず、積極的に新しいアイディアを提案したり、実行する行動

  2. ネットワーク構築/活用行動
    組織内の他者との広い関係性を構築し、そのネットワークから得られた情報を仕事に活かす行動

  3. ポジティブフレーミング行動
    提示された問題を認識するために人間が準拠枠を設ける現象ないしプロセスのこと

  4. フィードバック探索行動
    自分自身の仕事や役割に対するフ ィードバックを上司や同僚、仕事それ自体から積極的に求め、そこから仕事や会社に関する多様な情報を得て、内省する行動

プロアクティブ行動の効果

では、プロアクティブ行動を行うことでどのようなメリットがあるのでしょうか?著者は以下の表で、四つのプロアクティブ行動(行)が、七つの組織適応(列)との関係性を重回帰分析によって明らかにしています。この表が非常に示唆的なのです!

尾形(2016)、93頁

統計ど素人なので超ざっくり解説しますと(威張って言えることではありませんが。。)、アスタリスク「*」が二つ以上ついている項目は、有意な影響を与えている関係が明らかになったと言えます。例えば、フィードバック探索行動と離職意思との関係は「-.223**」となっていますので、フィードバック探索行動が高いと離職意思が低下するという負の影響関係にありますよ、という意味合いです。

ポイントは二点です。第一に、四つのプロアクティブ行動はいずれも組織適応に効果があることがわかったことです。第二に、その効果の内容は各プロアクティブ行動によって異なることもわかりました。つまり、プロアクティブ行動が組織適応に効果はあるので有効な行動ではある一方で、個別具体的な組織適応の課題がある場合には、異なる行動に焦点を当てる必要があるということです。

本論文は若手社員に焦点を当てた調査を行なっています。そのため、若手社員の組織適応上の課題を考え、それに効果のある若手社員の行動をバックキャスティングで明らかにし、そのために必要な施策を検討するということを実務の場面で適用できます。

プロアクティブ行動の促進要因

施策を検討する際には、プロアクティブ行動を促進する要因が明らかになっている必要があります。本論文では、冒頭でも述べたとおり、促進要因についても明らかにしてくれているので大変ありがたいものなのです。

尾形(2016)、94頁

先ほどと同じ重回帰分析なので表の見方の説明は割愛します。もし、若手社員のネットワーク構築/活用に課題があるとしたら、他のメンバーとの協働を促すような職務アサインメントにする(タスク依存性を高める)とか、職務遂行の中でこういう点ができるようになったね!と細かく伝えてあげる(自己効力感を高める)といった他者からの関与を高めることが大事であるというわけです。

終わりに

尾形先生の『若年就業者の組織適応』という若手社員の定着および活躍に焦点を当てた名著がありまして、こちらの第9章をこってり学術風味にしたのが本論文です。他の論点も含めて網羅的かつざっくりと理解したい方は以下の書籍を読まれると良いかと思います。

同書のざっくり感想については、ご関心のある方は、以前の私のエントリーをご笑覧くださいませ。


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