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【論文レビュー】本当に職場の人間関係を良くすることが若手社員の早期離職を防ぐのか!?:初見(2017)

若手社員の早期離職の要因について、環境要因、企業要因、個人要因という三つの要因を見てきた著者は職場要因に最も注目しているとしています。その理由はシンプルで、職場要因が明確になれば企業の現場が有効な打ち手を講じることができるためであるとしています。現場に対してインパクトがあり、現場にとってありがたいこのような研究を行いたいものだと思います。

初見康行. (2017). 職場の人間関係が若年者の早期離職に与える影響: アイデンティフィケーションからの実証研究 (Doctoral dissertation, 一橋大学).

職場の人間関係と離職

すごくシンプルに言ってしまえば、職場の人間関係が良好であれば離職意思が低くなるよ、という仮説を著者は提示しています。これは意訳に過ぎますので詳細は下の分析モデルをご覧ください。

p.135

職場の人間関係については特定の個人との一対一関係ということではなく上司・先輩・同僚といった多様なメンバーとの関係性をアイデンティフィケーション(一体感)によって描き出そうとしています。さらには、職場の人間関係と残留・離職意思とは直接的な関係性を想定するのではなく、職務満足と組織アイデンティフィケーションを媒介した関係性を想定していることがわかります。

本論文では上述の分析モデルが検証されています。その上で、実務的に着目するべき点が2つほどありました。

若手社員ほど関係性が大事!

第一に、若年者は他のレイヤーよりも上司・先輩・同期との人間関係が職場の人間関係性が良好であるという認識に与える影響が大きく、さらには職務満足と組織アイデンティヴィケーションを媒介しての残留意思や離職意思へのインパクトも大きい、という結論に着目するべきでしょう。

本研究で若年者と想定しているのは大卒入社後3年間ですので、入社3年目が終わるまでのタイミングでは、職場における多様なメンバーとの関係性をケアすることが、不必要な早期離職を防ぐ上で重要であることが示唆されています。

残留意思と離職意思は裏表の関係ではない!

これはちょっとマニアックな話になりますが、職場の人間関係と残留意思・離職意思とを媒介する変数と結果変数との関係は裏表ではないという点です。本研究によれば、残留意思へは組織アイデンティフィケーションがより大きな影響を与えるのに対して、離職意思へは職務満足がより強い影響を与える、ということを明らかにしています。

つまり、残って欲しいというリテンションを強化するためには組織との一体感を高める施策が有効であるのに対して、やめてほしくないという場合には職務満足を高める施策が有効であるということです。これは直感的にも分かるのではないでしょうか。たとえば、やめるかもしれない人材に対して理念の共有を図ろうとしても逆効果になりかねず、むしろ現実的な職務アサインメントによって満足感を得てもらうことで辞めないでもらう、というアプローチです。

若手社員の早期離職を防ぎたい、あるいはリテンションを高めたいと考えている方は、ぜひ本論文をご自身で読んでみてください。示唆に満ちた論考です。

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