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【論文レビュー】行政組織の昇進構造は企業組織と異なるのか?:前浦(2008)

本論文では、行政組織を対象とした昇進構造に関する調査を行い、民間企業における既存研究との比較に基づいて考察を行っています。結論を先取りすれば、行政組織においても今田(1994)が提示している三つの重層的昇進モデルと基本的には同様の昇進構造が存在し、その内容に相違点があることを指摘しています。

前浦穂高. (2008). 大卒ホワイトカラーの昇進構造- 行政組織と民間企業の比較分析. 立教經濟學研究, 62(2), 219-240.

日本企業の重層的昇進モデル

詳しくは今田(1994)を参照いただければ早いのですが、ざっくりいうと日本企業における昇進構造は、①大卒入社後から五年目までの初期キャリアは一律年功型、②五年目以降から課長昇進までの中期キャリアは昇進スピード競争型、③課長昇進後の後期キャリアはトーナメント競争型、から成り立っているというものです。現代の日本の大企業で考える場合、②③の課長を係長レベルに置き換えれば概ね近しいのではないかなと感じます。

行政組織と民間企業の相違点

民間企業との相違点は、総じて昇進確率が低い点と、昇進レースの追いつき・追い越しが早い段階でなくなるという二点であるとしています。要は、民間企業よりも早い段階で選別を行っていると解釈できるとしているのです。

その理由として、①公務員には雇用保障があるため昇進競争に漏れても離職を選択しない可能性が高い、②調査対象の行政組織における大卒比率が民間企業より低いため大卒社員の活躍を促す目的で早い段階から選抜・育成が求められたからではないかとしています。

公務員をカッコに括ると見えてくる示唆

本論文は行政組織を対象とした調査であり、民間企業との比較に基づいて考察したものになります。だからと言って、行政組織で働く人にしか示唆がないかというとそうではありません。

上述した相違点を改めて見てください。離職率が極めて低く、大卒比率が低いという特徴を持った民間企業であれば、本論文における早い選別を伴う三層構造の昇進モデルをベースにした運用が機能する可能性があります。反対の立場から捉えれば、離職率が低くない状態であるか、大卒比率が低くない状態で、こうした昇進の運用を行うと意図せざる離職が増えるリスクがあるかもしれません。

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