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【論文レビュー】社内公募制度とキャリア自律の関係性:千野(2022)

本論文の調査は2022年6月にリクルートワークス研究所が実施したものです。300名以上の企業に勤める社員のうち、社内公募制度がありかつ制度適用対象者である866名を対象とした調査なので、直近の社内公募制度に対する意識調査として最適なデータを提供してくれているありがたい調査です。

千野翔平. (2022). キャリア自律の観点から見た社内公募制度の運用実態. Works Discussion Paper Series No.58

キャリア自律している人は社内公募に応募する

まずキャリア自律が高い人は社内公募に応募しているという発見事実が明らかになりました。著者の仮説通りの結果であり、納得できる内容です。キャリア自律している人が退職してしまうことを防ぐために、社内におけるキャリア機会を求められるというのは社内公募制度の狙いの主要なものでしょう。そのため、人事の制度企画部門にとって有益な検証内容と言えそうです。

周囲の支援や組織風土がキャリア自律を促す

では、キャリア自律を促すための組織側の要素としてはどのようなものがあるのでしょうか。仮説に基づいて重回帰分析を行った結果は以下のとおりです。

p.9

上司の支援職場の支援的環境といった周囲の支援は1%水準で有意であることがわかります。個人の意識や行動だけではなく周囲によるサポートがキャリア自律を促すということです。

それに対して組織風土については留意が必要です。10%水準で有意となっているのは「従業員のキャリア形成を行うのは会社の責任だという意識がある」「多様な人材の能力・才能を活かすようにしている」の二つの項目です。一つ目の項目については直感的には意外な感もありますが、会社によるキャリア支援が個人のキャリア自律を促すという日本企業の現実を表しているのかもしれません。

異動希望が叶うことの調整効果

キャリア自律がどのような効果をもたらすかについては、能力向上発揮、ワーク・エンゲージメント、リテンションの三つとの関係性を検証し、それぞれに影響していることが明らかになりました。

その上で、異動希望が叶うことによる調整効果を見た結果が以下のとおりです。

p.10

キャリア自律との交互作用項を見ていただくと、キャリア自律からワーク・エンゲージメントへの影響関係を異動希望が叶ったことが調整していることがわかります。つまり、キャリア自律が高まるとワーク・エンゲージメントが高まるという関係性に対して希望が叶うとより高まるということが示されたと解釈されます。

社内公募制度に対するHRBP時代の所感

ここまで社内公募制度に対してポジティヴにまとめました。本論文の内容はその効果に関してポジティヴですし、キャリア研究を行う身として良い制度であると理解しています。

ただ、現場で人事を担う立場(HRBP)時代を思い起こすと運用面では結構しんどい制度だったという印象です。個人の単位で捉えてキャリア自律できている人が社内公募に手を挙げるのであれば問題なく対応できるのですが、不人気な職場で働く社員が「そこから出たい」という動機で社内公募に手を挙げるケースが多くみられるのです。もちろん個人には責任がないので手を挙げた方には何も思いませんでしたが、HRBPが穴埋めとしての異動案の検討とマネジメントへの説得をせねばならず、それがずっと続くのがなかなか辛いプロセスでした。

マネジメント層以上のタレントレビューや降格との連動を行うなど、社内公募制度の副作用をケアしながらの対応が求められるのかもしれません。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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