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【論文レビュー】キャリア自律から離職への影響を和らげる組織の役割とは?:黒沢・下村(2023)

本論文では、個人がキャリア自律しているという感覚が高まると離職意向も高まる傾向があり、特に若年労働者ほどその傾向が顕著であるとしています。その上で、キャリア自律自体は個人にとって必要不可欠であるとした上で、働いている職場が快適であるという感覚を持ちながら働けるように組織が支援・整備することで、キャリア自律から離職意向への影響を緩和できるとしています。

黒沢拓夢, & 下村英雄. (2023). 自律的キャリア観と転職意向の関係性―職場環境を考慮した検討―. キャリア・カウンセリング研究, 24(2), 1-12.

自律的キャリア観

まず、本書では自律的キャリア観を「自らのキャリアを組織のみに委ねず個人主導で計画する意識」(2頁)と定義しています。著者たちは、プロティアン・キャリア、バウンダリーレス・キャリア、キャリア・セルフマネジメントといった概念をひっくるめたニューキャリア論を基にしてこのような定義づけを行っています。

これらのキャリア概念は、組織の枠組みにとらわれないという意味合いが強いものです。そのため、自律的キャリア観が高くなれば、どのような組織でも雇用され得るという感覚が強くなり、離職意思も高まるというエンプロイアビリティ・パラドックスが直近のキャリア研究では指摘されており、本論文でも言及されています。

快適職場

とはいえ、キャリア自律という言葉がある程度は定着し、企業で働く個人のキャリア自律を支援するということが喧伝されるようになってきている以上、キャリア自律を否定することは現実的ではないでしょう。では、どのように組織が対応するのか、というと個人の快適職場観を高めることが大事だ、というのが本論文の指摘です。

本論文によれば、快適職場観とは、キャリア形成・人材育成の支援がある、仕事の裁量性がある、労働負荷が厳しくない、といった要素から形成されるものです。このような快適職場観が個人の中で高まると、自律的キャリア観と離職意向との正の相関に対して調整効果を持つ(つまり、快適職場観が高いとキャリア自律観→離職意向の相関が下がる)ことを、本論文では明らかにしています。

企業としての対応

本論文の発見事実は、企業にとって重要な示唆があると言えます。というのも、キャリア自律に関する個人への施策を打ち出す上では、快適職場観を高める施策やサポートと併せて行わないと、離職率が高まってしまうということになりかねないからです。この点をよく留意しながらキャリア自律に関する施策の企画・遂行をしたいものですね。

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