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【論文レビュー】キャリア・アダプタビリティはどのように離職意思を下げるのか?:Wang et al.(2022)

Rudolphさんたちのメタ分析によれば、キャリア・アダプタビリティは離職意思を(程度は低いけど)下げる、とされています。著者たちは、このメカニズムを深掘りしようという目的意識で、どのような構造で下がるのか、あるいは上がることもあるのか、ということを明らかにしています。

Wang, F., Xu, Y., Zhou, X., Fu, A., Guan, Y., She, Z., ... & Bi, Y. (2022). Are adaptable employees more likely to stay? Boundaryless careers and career ecosystem perspectives on career adaptability and turnover. Applied Psychology, 71(4), 1326-1346.

結論

まず、著者たちは研究上の仮説を以下のようにおいていました。結論をまず述べると、以下の関係のうち、キャリア・アダプタビリティが情緒的コミットメントを媒介して離職行動に影響するという関係性をバウンダリーレス・キャリア志向が弱める調整効果を持つ、ことだけが認められず、それ以外は以下のモデル通りであったことを明らかにしています。

p.1328

キャリア・アダプタビリティは個人にとってキャリアをすすめる能力/資源なので、情緒的コミットメントという組織目線のものが媒介することで離職意思を低める、というストーリーは直感的にも理解できるでしょう。

他方で、相対的剥奪を媒介すると離職意思を高めてしまう、という論理展開もなんとなくおわかりいただけるのではないでしょうか。また、この際にバウンダリーレス・キャリア志向という組織の枠に囚われないキャリア志向が調整効果を持つことも直感的には理解できます。

相対的剥奪とは何か

しれっと補足なしに書きましたが、相対的剥奪(relative deprivation)について少し説明します。『社会学の力』によれば、相対的剥奪は、マートンの研究を踏まえてランシマンが以下のように定式化したと解説しています。

①個人AはXをもっておらず、②Aは他の誰か(過去や将来の自分自身を含む)がXをもっていると(本当にもっているかどうかにかかわらず)みなしており、③AはXを欲しいと思っており、④AはXをもつことが可能だと思っているとき、個人AはXを相対的に剥奪されている、とする(Runciman 1966:10)

『社会学の力』173頁

すごく意訳すれば、他者と自身を比較して不満を抱くことであり、「隣の芝生が青く見える」をイメージすれば良いでしょう。

留意点

本論文が導き出した結論は興味深いものの、重要な留意点があります。吉田&村井(2021)は重回帰分析の結果を基にして因果を推定することに疑義を呈されていますが、本研究はまさにこの内容に触れるものです。興味深い媒介効果が出ているものの、この点は留意しておいた方が良さそうです。



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