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【論文レビュー】職位・部署への滞留が長期化する場合に必要な人事上の対応とは?:服部(2012)

組織のフラット化、新卒の職種別採用の導入、中途採用の増加、業績連動型の報酬体系への変更、といった組織・制度上の変化が日本企業では進んでいます。こうした変化の社員にとっての意味合いは、昇進機会の減少により職位の滞留期間が長引き、ジョブ・ローテーションの減少により部署の滞留期間も長期化することが予測されます。本論文では、現在のポジションへの滞留による組織に対する義務感の低下の影響と、心理的契約を更新するために職務の役割責任を明確化したりキャリア研修を実施することの重要性が指摘されています。

服部泰宏. (2012). 日本企業の組織・制度変化と心理的契約- 組織内キャリアにおける転機に着目して (特集 雇用契約を考える). 日本労働研究雑誌, 54(11), 60-72.

日本企業の組織・制度上の変化

ファストトラックなどの一部の層を除いた多くの社員にとって、組織のフラット化や人事制度の内容や運用の変化のトレンドは現在のポジションへの滞留期間が長期化しています。従来の日本企業では、三年程度での定期的なジョブ・ローテーションが多く、また職位と必ずしも連動しない職能資格等級制度の運用による細かなピッチでの昇格による外発的動機付けが機能していました。

こうした動機付けがあることは明示化された雇用契約ではないものの、上司や先輩社員を見ることで組織社会化した社員にとって心理的契約として内面化されています。しかし、組織・制度上の変化によって状況が変わると、社員個人にとっては心理的契約が履行されないという状態性が生じると考えられます。本論文での結論の最初の点は、滞留の長期化により心理的契約の不履行状態が生まれ組織に対する義務提供の感覚が減少することを明らかにしています。この辺りの関連性は、以下の図を見ていただくとわかりやすいでしょう。

服部(2015)p.65

役割責任の明確化とキャリア研修による心理的契約の更新

本論文では、組織・制度上の変更は好むと好まざると今後も続くトレンドであるという現実を見据えています。その上での対応として、①職務に関する役割責任の明確性を上げることと、②キャリア研修によって社員の職務に対する意味づけを付与すること、といった点が重要になると指摘しています。

実際に①②が本論文で組織や社員に対する義務へポジティヴな影響が出ていることが実証されていることは、人事にとって今後取り組むべき方向性を提示していると言えるのではないでしょうか。

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