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【論文レビュー】キャリア構築理論とキャリア・アダプタビリティ:Savickas(2013)

先日までサビカス先生がキャリア・カウンセリングについて解説した翻訳本をまとめてきました。本論文は、もう少し小難しく書かれてはいるものの基本的なラインは同書と変わりません(当たり前ですが)。かつサビカス先生の英語は簡潔明瞭で、彼のキャリア構築理論(Career Construction Theory)やその鍵概念であるキャリア・アダプタビリティ(Career Adaptability)がわかりやすく書かれています。

Savickas, M. L. (2013). Career construction theory and practice. Career development and counseling- Putting theory and research to work, 2, 144-180.

サビカスが自身のキャリア・カウンセリングについて簡潔にまとめている『サビカス キャリア・カウンセリング理論』のまとめはこちら↓。

キャリア構築理論

キャリア構築理論は社会構成主義に依拠しています(とサビカス先生自身が本論文で書かれています)。つまり、言葉によって自己が生成され、アイデンティティが形成され、キャリアも構築される、という捉え方をしています。言葉を大事にしているからこそ、サビカス先生は、理論について述べるだけではなく、具体的なカウンセリングのステップの解説を丁寧にしているとも言えそうです。

言葉を用いて他者と対話したり、リフレクションのために自己対話をするためには、経験が必要です。というのも、内的なものが先験的に存在すると捉えるのではなく、外的な存在との相互作用によって意味が生成されるとするのが社会構成主義だからです。そのため、経験によって他者や事象との相互作用があり、こうした外的な環境への適応を理論化したものがキャリア構築理論のポイントと言えます。

キャリア・アダプタビリティ

外界への適応を個人の持つリソースと捉えたものがキャリア・アダプタビリティです。1997年にオリジナルの定義がなされた後、2002年に変更になり、本論文でも変更になっているので少しずつサビカス先生の考え方が変わってきているのでしょう。本論文では以下のように定義されています。

an individual’s psychosocial resources for coping with current and anticipated vocational development tasks, occupational transitions, and work traumas that, to some degree large or small, alter their social integration (p.157)

キャリア・アダプタビリティには四つの次元があるとしてそれぞれの頭文字がCなので4Cとしてよく表されます。具体的には、Concern、Control、Curiosity、Confidenceです。それぞれ、どのようなキャリア上の課題に対して、どのような態度と能力を用いて、どのような対処行動を取るのか、を以下のように整理してくれています。

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あとがき

2021年の現在でも、不必要な転職を煽ったり、スキル獲得を煽る宣伝文句で「キャリア・アップ」という言葉がよく使われます。昇進・昇格や給与アップといった外的キャリアではなく内的キャリアを重視するHallやArthurなどのニューキャリア論は、2000年代前半に日本でも高橋俊介さんがビジネス書で盛んに紹介される中で、「キャリアにはアップもダウンもない」と書かれていました。

それにも関わらず、いまだに人事コンサルの方の文章でも、キャリア・アップという言葉が使われています。旧態依然なモーレツ系日本企業を憧憬している方なのか、単にキャリア理論に対して不案内なのか、と私は認識しています。サビカス先生も、以下のようにキャリアアップやダウンという言葉への違和感を述べています。

Accordingly, career construction theory views career as a story that individuals tell about their working, life, not progress down a path or up a ladder. (p.150)

サビカス先生の論文はこれまでもいくつかまとめているので、よろしければご笑覧くださいませ。


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