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【論文レビュー】異動と昇進と心理的契約の関係性とは?:服部(2012)

研究プロセスが行き詰まってくると、良い論文を読むようにしています。良い論文には、背景、先行研究、リサーチクエスチョン、調査設計、考察、示唆、といったいずれの観点でも勉強になることが多く、自身の研究に向き合う上でのヒントを得られることがあります。藁にもすがる想いとまではいきませんが、それに近い想いでこちらの論文を読んでみました。

服部泰宏. (2012). 日本企業の組織・制度変化と心理的契約- 組織内キャリアにおける転機に着目して (特集 雇用契約を考える). 日本労働研究雑誌, 54(11), 60-72.

全体像

本研究の仮説は以下の全体図の中の本研究の範囲内にあるものとなります。

p.65

分析結果としては、「上司ー部下関係の経験年数長期化」は「従業員が知覚する相互義務の低下」については影響関係は見出せなかったとしていますが、それ以外の影響関係は見出されたとされています。

結論

組織内キャリア転機の減少が相互義務の弱体化を招く」(p.70)ことが本論文の基本的な結論だとされています。組織内におけるキャリア転機とは、主なものとしては水平方向の移動(異動)と垂直方向の移動(昇進)とがあります。こうした異動や昇進の機会が減ると、社員と組織との相互義務が弱くなるというわけです。

だからといって、服部先生は「「だからこそ、転機の減少をもたらす組織フラット化や成果主義人事制度は問題である」ということを、必ずしも意味しない」(p.70)と述べておられます。これは企業における現実をとらまえたご指摘と思います。

実践的示唆

ではこうした企業組織における現実を踏まえた上での提案として「日本企業にとっての人事的課題は、従業員の組織内キャリアの転機に代わって、組織と個人の関わりあいについての内省を促進するメカニズムをビルドインすること」(p.70)と提言してくださっています。

具体的には、組織と社員との間の契約内容を明確化することや、個人が自身のキャリアについて考えられる研修を提供することなどを挙げていらっしゃいます。本論文は2012年のものですが、現時点(2023年)で考えれば、職務記述書を用意したりキャリア・パスを設定するといったことも有効かもしれません。

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