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ナラティヴ研究はどのように生まれたのか。:宇田川(2015)論文レビュー

本論文では、社会構成主義が組織論に与えた影響と、そこからの発展のあり方について丹念に述べられています。

宇田川元一(2015)「生成する組織の研究」『組織科学』49(2), 15-28.

著者は『他者と働く』で有名な宇田川先生です。同書はナラティブ・アプローチが実践的に論じられており、本論文はそこへと至る背景について、社会構成主義を中心にレビューされていると言えます。

ベイトソンの「ゆでガエル理論」

本論文は、文化人類学者・精神医学者のベイトソンによる組織論から始まります。ベイトソンが、差異を生み出すための枠組みがなければ、差異を差異として認識できないとしています。水温が徐々に上がると差異を認識できずに茹で上がるまでお湯から抜け出せないというベイトソンの有名なゆでガエルの寓話を想起すればわかりやすいでしょう。

ベイトソンのこの考え方を組織論に応用したのがワイクとモーガンです。

ベイトソンを受け継ぐワイクとモーガン

カール・E・ワイクは、社会における多義性を削減するプロセスを組織化と呼んでいます。組織化のプロセスを通じて、ある社会や組織において意味が生成されることをセンスメーキングと名づけます。つまり、センスメーキングによって、同じ組織のメンバーが差異の認知のフレームワークを保有するという組織のあり方を提示したと考えられます。

多義的な状況への解釈において、メタファーを用いたのがガレス・モーガンです。メタファーは、ある概念をわかりやすく伝えるための装飾物であるばかりではなく、考え方やものの見方そのものであるとモーガンは主張し、組織におけるメタファーの共有を提示しています。

ナラティブ・アプローチから社会構成主義へ

ワイクとモーガンの問題提起と課題を踏まえて発展させたうちの一つがナラティブ・アプローチです。ナラティブの動詞はnarrateであり、物語るという意味合いです。ナレーターとかナレーションという日常的にも使われるカタカナ言葉を想起すればわかりやすいでしょう。

物語を語るという行為は、利害や立場を論理的に主張することではないと本論文で解説されています。そうではなく、立場の違いを包含できるようなフレームワークを提示する行為であり、組織における多様性を包含する枠組みと言えるのではないでしょうか。

ナラティブ研究を組織の変革として受け継いだのが、心理学の観点から社会構成主義の実践を探求するケネス・ガーゲンです。ガーゲンによって現実を社会的に構成するという論理展開が発展し、さらに実践度合いを増したデビッド・クーバーライダーのアプリシエイティヴ・インクワイアリーへと繋がっていることが本論文でも提示されているのです。

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