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【論文レビュー】若年者が早期離職する複数の要因間の関係性とは?:初見(2017)

若年者が企業を早期離職する要因として、環境要因、個人要因、企業要因の三つが挙げられることを先日のnoteで見てきました。著者は、それら三つの要因の間に因果関係があることを仮説として提示しています。この因果関係も実感値と合うものなのでまとめてみました。

初見康行. (2017). 職場の人間関係が若年者の早期離職に与える影響: アイデンティフィケーションからの実証研究 (Doctoral dissertation, 一橋大学).

先行する環境要因

若年者の早期離職を招く最も大きな要因は環境要因であるとしています。その背景として、若年者の早期離職と大卒求人倍率との変遷が逆相関関係にあることを挙げて、以下の二つの図表を対比しています。

p.26

この図表、気持ち良いほどに逆相関していることがわかります。これを見つけた時は気持ちよかったでしょうね。

次に生じた企業要因

求人倍率の上下動の背景には日本経済というマクロ要因があります。景気の良し悪しは各企業の業績に影響し、企業要因は環境要因の影響を受けるという関係性が考えられます。

その結果として現れているものが賃金プロファイルです。孫引きになってしまって恐縮ですが、濱秋他(2011)を著者は引用しています。

p.31

給与の多寡に対する価値観もまた変遷している可能性はあるものの、一社に勤め続けることによって得られる報酬という誘因が弱くなっているということは言えるデータです。約10年間隔での経年で見てみると、40歳頃からの伸びが弱まっていることが見て取れます。

最後に個人要因

こうして、環境要因から企業要因を経て個人要因に影響が及んだというのが著者の考えです。具体的には、2000年頃から就社意識から就職意識へと職業観が変化したとしています。こうした個人要因の変化を表すものとして、日本生産性本部が調査している「会社の選択理由」を基に考察しています。

p.28

解釈の仕方はいくつかある図表だとは思いますが、著者の指摘は納得的に思えます。ここまでの傾向を統合したものが以下の図表です。

p.48

環境要因→企業要因→個人要因へと影響していく時系列上の関係性がわかるとともに、各世代によって特徴もあるということが示されています。この仮説的な理解に立った上で著者は、職場の人間関係という側面に焦点を当てて論旨を展開していきます。そちらについてはまた後日のnoteで取り上げる予定です。

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