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リノカット版画に行き詰まり、線画でのボタニカルアートに原点回帰

数か月前にリノカット版画という日本ではあまりやっている人が少ない手法の版画に挑戦していると書きました。

記事中に書いていますが、日本であまりやっている人が少ない理由として、リノカット版画が盛んにおこなわれている国で使われているリノリウム(linoleum:リノカットの版材)が日本では手に入りにくいことなどを挙げています。

私は輸入品に頼るのはコストがかかりすぎることと、できるかぎり国産の素材でできる方が持続可能だろうと考えて、日本の床材メーカーが販売しているリノリウムを取り寄せて制作をはじめました。


制作を続けるうえでぶつかった壁

リノカット版画を始めて3か月。

どうしても自分の求めるクオリティにあと一歩届かない!

かすれ、版画紙の毛羽立ち、印刷ミスが続く

原因を探して試行錯誤していると、どうやら自分の使っている国産リノリウムが問題だというところにたどり着きました(※当然自分の技術不足も大いに関係していますが・・・)

正確に言うと、「使っているリノリウムが水溶性インクでのリノカット版画に向いていない素材である」と感じたのです。

何度刷っても綺麗にインクがのらず、かすれてしまうことに悩んでいたのですが、当初はトナー転写をする際に使っているアクリックメディウムが版にのこってしまうことが原因で起こるのだと思っていました。

メディウムがノリとなってトナー印刷を版に貼り付けるので、メディウムをすべて剥がすと貼り付けたトナーもとれてしまうことになります。メディウムを完全に剥がしきるのは無理。

「それならば、トナー転写をしないでカーボン紙で転写しよう!」

一時はそう考えたのですが、

「いや、まてよ、まずはなにもしていない素のリノリウムにインクを載せたらどうなるだろう」

気になってインクをローラーでのせてみると、

「インクをはじいてるーー!!!!」

色々調べてみて、海外のリノリウムに比べて日本のリノリウムは品質が”良すぎる”ことが仇となって、あまりリノカット版画には向かないのではないかという結論に達しました。

いや、最初に確認しようよ、、って話なんですが、実際にはリノリウムのサンプルを取り寄せて版画を制作してある程度は確認をしました。ただ、始めた当初にある程度のクオリティで印刷出来てしまったこともあって、残りの足りないクオリティは制作する過程で上達するだろうと見込んでいたわけです。

でも、上達はすれど最後の、あと一歩のクオリティに満足できず頓挫。
そしてリノリウムの素材の見直しに至ったという訳です。

自分が使っていたリノリウムの問題点

そもそも私が取り寄せて使っていたリノリウムは、バレエ教室の床材などとして使われるもので、決して版画用のリノリウムではありません。

前述の記事内でも書いたように、海外では版画用のリノリウムが売られているのですが、日本には流通していないので輸入する必要があります。

海外でリノカット版画用によく使われてるのがバトルシップリノというグレーのリノリウムか、ピンク色のSpeedball社のカービング用リノブロックです。

このピンク色のリノブロックはラテックスでできていて、バトルシップリノよりも消しゴムハンコに近い素材で彫りやすいようで使っている作家さんが多いです。

ただ、日本で売られている消しゴムハンコのゴム板よりも若干サイズが大きい程度で、大型の作品を作るのには向かないので、サイズを求める人はバトルシップリノを使っているようです。

このバトルシップリノは、私が使っている国産のリノリウムよりも、彫ったときに「ぼそぼそ」とする質感で、彫りにくく細かい彫刻には向かないですがインクのノリがいいようです。

反対に、私が使っていたリノリウムは、彫り心地がゴム版に似ていて密度が高く、彫りやすいのですがインクを弾いてしまうようでした。トナー転写をした際のメディウムはインクを弾くのを抑えてくれる効果があったのですが、逆にインクと版画紙を強くくっつける方に働いてしまい紙がはがれてしまうことが多かったです。

これに関しては、インクの粘度を調節するなどの方法があるかと思います(自分でもバインダーを混ぜて粘度調整はやりました)が、うまくいかず。

インクを替えることでうまくいくかもしれなかったけれど、、、

版画に適したリノリウムが手に入りにくいのなら、インクを替えることで対応できるのでは!?とも考えました。

インクをはじきやすい点については油性のインクに替えるという手もありますが、アトリエではない自宅で作業するのに油性インクは道具の管理の点で避けたかったのです。

水性インクで可能性を模索したのですが、これも輸入の海外画材メーカーのインクにたどり着き、継続的に使うには高価すぎる&在庫がなくて手に入りにくいという理由で却下となりました。

因みにですが、数名のリノカット作家さんのブログやQ&Aを見てきた中で、最も精密に表現できるインクとして、クランフィールド社のエッチングインクを挙げる作家さんが多かったです。

油性インクなので当然使う環境と道具の管理に手間がかかりますが、それを恐れないのであればこのインクが最も良いという評価をたくさん見ました。

ただ、やはり、、、高い!!! さすがにインクチューブひとつにこの金額は払えません、、、

ホワイトスピリットなどの化合物で洗浄することも環境に配慮すると避けたいのです。

自分が購入した外国製インクでは、こちらのシャルボネル社のアクアウオッシュインクは扱いやすく、インクを弾きやすかった日本のリノリウムでもかなりいい感じに刷ることができました。

しかも、水溶性の油性エマルジョンベースのインクなので、その名の通り水で洗い流せるので管理がらくちん!

ただし、難点は「全然乾かない」こと。

完全放置2か月でもこするとインクが指につきます。乾燥機などを使って乾燥を早めることは可能かもしれませんが、版画紙の素材によってはおそらく永遠に乾かないんじゃないかってくらい乾きません(汗)

そして本末転倒なのですが、私がリノカット版画を始めたのはブロックプリントでTシャツやトートバッグに印刷をしたかったからというのが始まりなのです。

今私が苦戦しているリノカット版画で使っているインクは、国産の布&紙兼用の「ダイカラー」

そもそもがこのインクで扱えないのであれば、布地へのブロックプリントは夢のまた夢なので、インクはダイカラーでうまく刷れるようにしていきたかったのです。

外国産の紙用インクでうまく刷れても、また布地に印刷したいときに同じ問題いが立ちふさがることになるわけです。

創作に行き詰まることはよくある

自分の表現したいものが、自分の求めるクオリティで創作できるかというのは、自分の技術もさることながら道具によるところが大きいです。

特に版画は、彫刻刀に始まり、リノリウム、インク、版画紙、そしてプレス機など様々な道具を使うのでその影響ははかり知れません。

今回自分のぶつかった壁は、

〇油性インクを使いにくい制作環境であること
〇国産のリノリウムの品質がリノカット版画に向いていない可能性
〇水溶性の高品質インクは外国製で高価&手に入りにくいこと
〇版画用のバトルシップリノやリノブロックの国内流通が乏しい
〇布にも印刷できるインクがベースであること

など幾つかの点で道具の影響(国産でカバーしきれない)がありました。

本来ならば、創作の試行錯誤にかける期間も短いですし、もっとクオリティを挙げるすべを模索することも可能なのですが、ここ数か月である程度手を尽くした中で「油性インクは極力使わない」「できる限り国産の資材で創作する」というポイントを譲らないでできる範囲では試したと思います。

今後は、いったん版画制作をやめて、油性インクを使いやすい環境(アトリエの確保)などを整えてから再開したいと思います。

それにしても、アイディアの面での生みの苦しみはいつも感じていますが、印刷過程での様々な道具の相性などでこれほどまでに印刷のクオリティに影響を与え、自分の求める品質に到達するまでに高いハードルがあるのかと思い知らされました。

もう一度勉強をし直して、出直してきたいと思います。

そして、日本国内でリノリウムの版画家さんがあまりいらっしゃらないのには、このような自分がぶち当たった壁のようなものが原因として色々あるんだろうなと感じました。

いただいたサポートは今後の創作活動でより良いものを制作するための画材購入費用などに使わせていただきます!