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MTV Unplugged: BiSH

BiSHのMTVアンプラグドを見た。

2月に放送されたBTSのMTVアンプラグドを見た時は、“これのどこがアンプラグドなんだ?”と思ったが、今回のBiSHはちゃんとアンプラグドになっていた。

韓国人は日本人より遥かに洋楽リスナーが多い。Apple Musicの地域別ランキングを見ても分かるように、日本のチャートではK-POPを除いた洋楽曲が100以内に1曲も入っていないことも多々ある。
それに対して、韓国のチャートでは最新の全米ヒット曲を中心に結構、洋楽曲がランクインしている。

実は政治的・経済的・エンタメ的な視点で世界的な大国になる前から韓国では洋楽人気が高かったりもする。
何故か80年代終盤、東京新聞の夕刊に韓国のヒットチャートが掲載されている時期かあったが(おそらく、ソウル五輪にあわせて韓国を政治やスポーツ以外の面からも知ってもらおうという趣旨なんだと思う)、そのチャートで日本ではあまり売れなかった「ダーティ・ダンシング」のサントラ盤が上位にランクインしていたのを覚えている。
ジョージ・マイケルの1stソロ・アルバム『FAITH』も日本より遥かに売れていた(市場規模の違いはあるので、売上枚数ではなく、あくまでもヒットチャート上位に長期間ランクインしているという意味だが)印象があった。

日本や韓国の政治力、経済力に関係なく、現在だろうと、30年以上前だろうと、韓国にはかなりの洋楽リスナーがいるということだ。

なので、BTSのMTVアンプラグドを手掛けた韓国人スタッフがアンプラグドが何かを知らないから、ああいう演出になったとは到底思えないんだよね。

なのに、実際のパフォーマンスはカラオケ歌唱という「?マーク」つきまくりのものでスタートしていた。後半になって、やっとバンド演奏がついたが、アレンジはほとんど原曲そのまま。エレキ・ギターやキーボードも使われていた。要は多少、スタジオ音源より音数を減らしただけのスタジオ・ライブだった。

アコースティック楽器(電子オルガンは許容範囲かな)の伴奏のみで演奏するのがアンプラグドなんだから(そもそも、アンプラグドというのは楽器をプラグにつながない=電子楽器は使用しないという意味だしね)、カラオケ歌唱やエレキ・サウンドというのは企画の趣旨を理解していないとしか思えない。

多くの音楽ファンは、アコースティック・ギターとか、バンジョーを伴奏にした“Dynamite”を聞きたかったはずなのに、実際に演奏されたのは、ちょっとだけ音数が減らされただけのスタジオ・ライブだからね…。

アーミー=BTSのファンはこのパフォーマンスを絶賛しているということは、ファンに望むものを届けるために、わざと全然アンプラグドではないパフォーマンスを披露したということなのだろうか?

BTSは、これまでにもいくつかの楽曲でリミックス・バージョンを作っているし、韓国語オリジナル曲、日本語オリジナル曲、英語オリジナル曲はそれぞれ違う音楽性と言ってもいいくらいだから、全く異なるアレンジで披露することに躊躇はないはずなんだけれどね…。

世界中で放送される冠番組だから、あまり、いつもと違うことはやりたくなかったし、ファン側もファンではない人にも魅力を知って欲しいから、できるだけ、普段に近いパフォーマンスにして欲しいって思っていたってことなのかな?

そして、本題に入るが今回のBiSHはというと、きちんと、アンプラグドのマナーに沿ったアレンジにはなっていたと思う。

でも、原曲のイメージから大幅に変わったアレンジのものはなかった。
NHKの音楽番組「うたコン」では、普段、カラオケ伴奏で歌うことが多い(口パクすることも多い…)秋元康系アイドルがハウスバンド(番組専属バックバンド)の生演奏をバックに歌うことがあるが、要はその程度のアレンジの変化という感じだった。

アンプラグド全盛期に番組音源を収録したライブ・アルバムがヒットしたアーティストでいえば、ボブ・ディランやニール・ヤングなんて、普段とたいして変わらないよねって思った。
その一方で、ニルヴァーナやアリス・イン・チェインズといったグランジ、オルタナ系やキッスのようなハード・ロック系は明らかに通常のリリース作品とは異なる音楽を提示していた。

また、アンプラグド出演時の音源を収録したライブ・アルバムとして最大のヒット作となったのはエリック・クラプトンのものだが、この時は、“いとしのレイラ”では原曲とは大幅に異なる印象を放っていたものの、リリース時における直近の大ヒット曲であった“ティアーズ・イン・ヘヴン”ではスタジオ・バージョンとそんなに大差はないという印象になっていて、楽曲によるアレンジにも色々と差が出ていた。

そうした過去の事例と比べると、明らかにアレンジは変わっているのに、楽曲自体の印象はそんなに変わらないというBiSHのようなケースは非常にレアなものかもしれない。

そして、今回のアレンジで聞いて改めて思ったのは、BiSHの“楽器を持たないパンクバンド”というキャッチフレーズはやっぱり、おかしいということ。
別にアイドルのくせに、ロックとかパンクを語るなという、アイドルを見下した連中のような発言をするつもりは毛頭ない。

普段、エレキ・ギターとか打ち込みで作られているトラックをアコースティック調にしても、そんなに楽曲に対する印象は変わらなかった。
いつもは、時には下品にも思えるWACK系アイドル特有のアナーキーなパフォーマンスや歌詞のせいで、彼女たちのジャンルをパンクとすることもなんとなく容認していたが、エレキ・ギターや打ち込みが排除された状態で、純粋に彼女たちの歌声や歌っている楽曲のメロディをよく聞くと、実は一般邦楽に近い歌声やメロディなんだということがよく分かる。

つまり、全然、パンク・マナーの音楽性ではなかったということ。
ぶっちゃけて言ってしまえば、70年代フォークから進歩していない邦楽のフォーマットに沿って作られた楽曲ということかな。

極端なことを言ってしまえば、米津玄師やあいみょん、King Gnu、Official髭男dismだって、70年代フォークを現在の録音技術やアレンジで焼き直しているだけ。BiSHもそうしたアーティストたちと同じ典型的な邦楽なんだということを気付かせてくれるアレンジだった。

もっとも、今回のアンプラグドに関係なく、BiSHの音楽はパンクではないよねとは、ずっと前から思っていた。

個人的には、90年代のUSオルタナをベースに邦楽化・歌謡曲化したものだと思う。特にアユニ・Dのソロ・プロジェクト、PEDROなんて、完全にUSオルタナがベースだよね。

今回、ニルヴァーナがアンプラグドに出演した際にカバーしたデヴィッド・ボウイの“世界を売った男”をカバーしたってのは、BiSHの音楽性はパンクではなくオルタナだということを証明していると思う。
まぁ、広義でいえば、パンク、特に90年代以降にブレイクしたバンドもオルタナだけれどね。グリーン・デイやオフスプリングだって、最初はオルタナとかモダン・ロックといったカテゴリーの中で人気を集めていったわけだしね。

ただ、ニルヴァーナでアンプラグドといえば、リアルタイムでこの時期のUSロックを聞いていた者からすれば、デヴィッド・ボウイのカバーではなく、“オール・アポロジーズ”だと思うんだけれどね…。カートの死が報じられた時に、アンプラグド・バージョンでヒット中の最新シングルだったわけだしね。

まぁ、オルタナ好きなのは、メンバーではなく、プロデューサーなど運営側だとは思う。
今回、MCでメンバーがニルヴァーナがカバーした“世界を売った男”を歌えて光栄だみたいなことを言っておきながら、デヴィッド・ボウイを呼び捨てにしていたから、ニルヴァーナにもデヴィッド・ボウイにもそんなに思い入れがないのはよく分かるしね。

今回披露された楽曲でもっとも、アンプラグドならではのアレンジを感じることができたのは、バンジョーを取り入れた“スーパーヒーローミュージック”だと思う。

コレって、多分、R.E.M.を意識しているよね?1991年に彼等がアンプラグドに出演した際はバンジョーもフィーチャーされ、そのうちの1曲“ハーフ・ア・ワールド・アウェイ”は単曲でMVとしてオンエアもされていたしね。

やっぱり、BiSHって、パンクじゃなくて90年代USオルタナだよね。

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