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billboard JAPAN年間チャートの衝撃

予想通り、billboard JAPAN Hot 100(シングル・チャート)の年間1位はAimer“残響散歌”だった。
上半期チャートでも1位だったが、下半期に同チャートを賑わせたように見えたAdo“新時代”が思ったよりも下降態勢に入るのがはやかったので、まぁ、このままAimerの独走は間違いないと思っていたからね。
実際、年間チャートを見ると“新時代”は7位だ。同曲が使われているアニメ映画「ONE PIECE FILM RED」は記録的な大ヒットとなったけれど(東映作品史上最大の興収)、音楽面ではそこまで記録的なヒットにはならなかったということなのかな。

まぁ、チャート的にはbillboard JAPAN Hot 100のトップ10内に“新時代”を含むAdoが歌う「RED」関連楽曲6曲が同時にランクインしたのは快挙だけれど、本国米国のHot 100ではテイラー・スウィフトがトップ10占拠という大記録を打ち立てているから、それに比べると地味だなという気はする。

以下、年間チャートで気になった点をいくつか。

◎トップ10内には広義のアニソンが4曲ランクイン

年間1位の“残響散歌”はテレビアニメ「鬼滅の刃 遊郭編」のオープニング曲。
4位のOfficial髭男dismの“ミックスナッツ”はテレビアニメ「SPY×FAMILY」のオープニング曲。
7位のAdo“新時代”が先述したようにアニメ映画「ONE PIECE FILM RED」の主題歌(実際の使われ方は挿入歌というかミュージカル・ナンバーだが)。
そして、10位のKing Gnu“一途”はアニメ映画「劇場版 呪術廻戦 0」の主題歌だ(実際の使われ方は情報量の少ないエンド・ロールにフル状態でダラダラと流れる2曲のうちの1曲という使われ方)。

これだけを見て、アニメやアニソンの人気が強いと評するのは違うと思う。

「鬼滅の刃 遊郭編」、「SPY×FAMILY」、「ONE PIECE FILM RED」、「劇場版 呪術廻戦 0」、いずれの作品もコアなアニメファンの間では賛否両論となっている作品だ。というか、「遊郭編」以外は否の方が多い。
一方で、ライト層や非オタの間ではほぼ絶賛一色になっている。
要はオタクではなく一般層が支持しているアニメがヒットしているということだ。つまり、劇場版「名探偵コナン」シリーズみたいな支持のされ方ということだ。

そして、そのテーマ曲などを担当しているアーティストを見ても分かるように、声優アーティストやアニソン歌手が支持されているわけではない。この4組の中では唯一Aimerをアニソン系アーティストと呼べなくはないが、同じ所属レーベル(SACRA MUSIC)のLiSAと比べるとその印象は薄い。本人もファンもあまり、アニソン歌手とは言っていないように見えるし、実写作品のテーマ曲担当や一般邦楽アーティストとのコラボも多いので、そうしたカテゴリーに組み入れられるのをあまり好んでいなようにも思える。

結局、アニメにしろアニソンにしろ、いかにもオタクが好きそうなものは大きなヒットにはならないということなのかな。
そう考えると、いかにもオタク向けの作品なのに一般にまで支持されてしまった「エヴァ」はすごいなと思ってしまう…。

◎洋楽シェアは一応1%だが…

今年も前年度同様、年間100位内に入った洋楽曲はK-POPを除くと1曲だけだ。しかし、その1曲が前回もランクインしていたザ・キッド・ラロイ&ジャスティン・ビーバーの“ステイ”ということを考えると、今年の洋楽ヒットは実質ゼロだったと言っていいと思う。

あれだけ、マスコミが流行っていると取り上げていたきつねダンスの曲として、遅ればせながら今年になって日本で注目されたイルヴィス“ザ・フォックス”(世界的には2013年のノベルティ・ヒット)すら入っていないということは、そんなにきつねダンスは野球ファンを除けば一般には浸透していなかったということなのだろう。

また、洋画としてはコロナ禍になって初の興収100億円超の記録的大ヒットとなった「トップガン マーヴェリック」主題歌のレディー・ガガ“ホールド・マイ・ハンド”もランクインしていない。
つまり、これは映画が若者にそんなに浸透していないからストリーミング再生回数があまり伸びていないということなんだと思う。

ちなみにアルバムの年間チャートでK-POPを除く洋楽作品で唯一100位内に顔を見せたのが、この「マーヴェリック」のサントラ盤だった。
去年のK-POPを除けばゼロよりはマシだけれど、その唯一の作品がサントラ盤、しかも、「トップガン」前作で使われた曲も再収録されているし、スコアを除くと新曲はたったの2曲しか入っていないということを考えると純粋な新作とは言いがたいからね。やっぱり、洋楽シェアが限りなくゼロに近い状態は続いているんだよね。

東京ドーム公演をやるくらい人気があったテイラー・スウィフトですら最近のアルバムは日本ではストリーミングもフィジカルもイマイチな成績だしね。

◎フィジカル指標しか伸びないアイドル排除

個人的にはビルボードのようなストリーミング重視のチャートも、オリコンのようなフィジカル重視のチャートも現実のミュージック・シーンを反映しているとは思えない。
今回のbillboard JAPANの年間チャートを見ても、2018年リリースのあいみょん “マリーゴールド”がいまだにランクインしている状況だ。しかも、トップ40内にだ。さらに、こうした旧曲の年間チャート入りはこの曲だけではない。
リリース当初にヒットしなかった曲が何年か経ってヒットしたとか、何年か前のヒット曲が、映画やドラマ、CMなどの影響でリバイバル・ヒットしたというのなら別だけれど、こうした複数年の年間チャート入り曲はこの間ずっとヒットしていた曲だからね。2年連続年間チャート入りくらいなら分かるけれど、それ以上の年数続けてランキングしている楽曲が複数あるのはミュージック・シーンが機能していない証拠だと思う。

米国だって似たようなものだ。大物アーティストが新しいアルバムを出すと、シングル曲やMV作成曲だけでないアルバム収録曲が軒並みチャートインするのは当たり前状態となり、11月には先述したようにテイラー・スウィフトによるシングル・チャートのトップ10占拠が話題になったくらいだ。

また、毎年、11月下旬辺りからクリスマス・ソングが大量にリエントリーし、1月上旬までチャートを占拠するような状態となっている。
マライア・キャリーの“恋人たちのクリスマス”は3シーズン連続で首位を獲得しているし、昨シーズンのピーク時にはシングル・チャートのトップ10中、8曲がクリスマス・ソング(しかも、そのシーズンにリリースされた曲はなし)となったくらいだ。

確かにラジオでは毎年、クリスマス・シーズンになると、クリスマス・ソングが大量にオンエアされる。要はストリーミングは自分で好きな曲をかけられるラジオみたいなものだから、まぁ、クリスマス・シーズンになればクリスマス・ソングを聞きたくなるだろうから再生回数が増えるのは当然だと思う。日本には以前から有線というシステムがあったが、これだって、やはり、このシーズンになればクリスマス・ソングのリクエストが増える。

でも、セールスとなると、フィジカルだろうとダウンロードだとそうはいかない。一度買ったものをまた買い直そうとは思わないからね。

映画やドラマ、CMなどに使われたことをきっかけにそれまで買っていなかった人が買うことはある。また、80年代までの楽曲ならCD化の際にそれまでレコード盤を買っていた人が買い直すこともあった。また、CD時代になってからでも8センチCDシングルで出ていたものが12センチCDで再リリースされることで買い直し需要が発生することもあった。
でも、8センチCDが駆逐されてから約20年となった現在ではリマスターとかリパッケージという形で再リリースでもされない限り、わざわざ買い直す人はいない。だから、山下達郎“クリスマス・イブ”は何度も何度も再発売しているんだと思う。

こうした日米のストリーミング重視のチャートを見てみると、本当に今ランクインしている曲はヒット曲なのだろうかと思いたくなってしまう。

一方でフィジカル重視のチャートはどうかと言うと、これも全くもってシーンを反映したものにはなっていない。
チャート上位を獲得するため、売上枚数記録を作るため、イベント参加権を手に入れるため、など楽曲を聞くこと以外の目的のために複数枚買いする熱狂的なファンによって、数字の上だけで大ヒットが“捏造”されている状況だ。だから、2週目になると一気に数字を落としてしまう。

billboard JAPANの通常のチャートを見ても、ジャニーズや秋元康系などのアイドル楽曲は初登場で上位にランクインしても翌週にはトップ20内にもいないというのが当たり前の状態となっている。一部ジャニーズと乃木坂46がかろうじて複数週間、トップ20内に入っていられるくらいではないだろうか。

だから、ビルボードはフィジカル以外の要素が弱いために不自然なチャート・アクションとなってしまうアーティストを極力排除する方向にシフトしている。
フィジカルに付随するルックアップ(CDの読み取り回数)や、ジャニーズやK-POP、K-POP風邦楽グループの組織票に使われてしまいやすいツイッターでの呟き回数の指標を来年度の集計から外すというのもその流れだと思う。

こうした方針変更によりストリーミングに消極的なジャニーズは大苦戦となっている。年間チャートではなにわ男子とSnow Manが1曲ずつランクインさせただけだ。
どちらも集計期間内にCDシングル3作とアルバム1枚を出しているのに、ヒット曲と認定されたのは1曲しかないということだ。

勿論、メンバーの分裂に納得いかないファンが買い増し作戦をして分裂を阻止しようとしているKing & Princeもランクインできなかった。

つまり、90万枚とか100万枚とかを売ってもビルボードには反映されないということだ。

そもそも、ジャニオタってストリーミング(サブスク)サービスを利用していないのではという気がして仕方ない。だから、ビルボードのチャートでは不利なのだろう。

分かりやすい例がTravis Japanだ。彼等はCDシングルを出さずに配信シングルでデビューとなったが、配信解禁直後はチャート上位に入ったが、その後は一気に下降してしまった。
それから考えられることは、ジャニオタはダウンロード購入はしても、ストリーミング再生はしていないということなのだと思う。

そして、ジャニーズ以上にチャート方式の変更のあおりを受けているのが秋元康系アイドルだ。

何と100位内に1曲も入っていないのだ。AKBグループはともかく、坂道シリーズすら入らないのはかなりの衝撃だと思う。

坂道は最近、CDシングルの付属Blu-rayにMVを収録しなくなった。
高画質のBlu-rayがあればファンはそれで満足してわざわざMVをYouTubeで見ようとは思わない。
でも、ビルボードのチャート成績をあげるためにはYouTubeでのMV再生回数を増やすことが重要。だから、ファンに半ば強制的にYouTubeの再生回数を増やすのに協力させるためにBlu-rayにMVを収録するのをやめたのではないかと思う。

しかし、この策は現時点では失敗に終わっているようだ。結局、コロナ禍になって握手会は開催されなくなったけれど、そのかわりのオンライン・イベント(ミーグリ)参加目当てでCDを大量に買っている人がほとんどで、MVには興味ないって人が多いってことなんだろうね。

ジャニーズにしろ、秋元系にしろ、ビルボードを無視してオリコン重視のままでいくのかな?でも、それだとファンはモチベーションを保てるのかな?

結局、フィジカルは弱くてもストリーミングに強いアーティストか(フィジカルを出していないアーティストも含む)、K-POPのように、フィジカルもストリーミングも強いアーティストでないとヒットしたと認定されない時代になったということかな。いくら、CDやダウンロードのセールス・ポイントを稼いでも意味がないってこと。

まぁ、フィジカル重視とストリーミング重視、どちらかのチャートを選べと言われれば、かろうじて、ストリーミングの方がミュージック・シーンは反映しているかなという気もするので、過渡期と見れば、こういう年間チャートでも仕方ないのかな…。

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