記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

アオラレ

現時点での今年の劇場での洋画鑑賞本数は16本。年間鑑賞本数は40本いければいい方かなという感じになっている。ちなみに去年はちょうど50本だった。

洋画不況とか邦高洋低と呼ばれて久しく、洋画を劇場で見る環境は悪化していたが、それでも、コロナ前の一昨年は74本の新作洋画を劇場で見ていたのだから、コロナ禍に突入して以降、洋画を見る機会が激減しているのは間違いないと思う。

とはいえ、欧州やアジア映画を中心にミニシアター系作品はまだ、それなりに供給されているとは思う。問題は米国映画の供給不足だ。

ハリウッドのメジャー系大作は多くの作品が本国のみならず世界的に公開が延期されていたので仕方ない部分もある(米国ではワクチン接種が進み、5月下旬から徐々に公開作品も増えてきてはいるが)。

しかし、米国で興行収入ランキングの正式な発表が復活した去年8月下旬以降の公開作品でランキング上位に入った作品(特にNYやLAの映画館の営業が再開された今年3月までの公開作品)で、メジャー系超大作に含まれないものは、メジャー系・独立系の作品問わず、日本では現時点では劇場未公開だったり、DVD/Blu-rayスルーだったり、劇場公開されても「未体験ゾーンの映画たち」といった特集上映のみだったりといった作品も多い。

確かに全米ランキング1位といっても、コロナ前より遥かに低い数字だから大ヒットとはうたえないし、俳優や監督の来日キャンペーンはほぼ100%無理。日本の芸能人を使ったイベントもコロナ禍では開催しにくい。

だから、「テネット」や「モンスターハンター」のような超大作ならキャンペーンやイベント抜きでも公開できるが、それ以外の作品は公開予定が立てられないということなのだろう。

ただでさえ、長引く洋画不況なんだから、プロモーションしなくてもヒットするような作品以外の公開を見送るのは仕方ないのかもしれない。
欧州やアジア映画に比べて米国映画はこうしたプロモーションに頼りきっていたから、なかなか新たな一手が出せないのだと思う。

メジャーのワーナー映画でアカデミー作品賞にノミネートされたのに、「Judas and the Black Messiah」が日本では劇場公開が見送られたらしいという情報もあるくらいだから、米国映画の日本公開には慎重になっているのだと思う。

本作「アオラレ」は米国で去年8月下旬に興行収入ランキングが復活した週に、ランキング首位を獲得した作品だ。
それが日本公開まで9ヵ月もかかるのだから、日本における米国映画マーケットというのは縮みまくっているということなのだと思う。

それにしても、何とか日本市場でアピールしようと策を巡らした結果なのだろうが、「アオラレ」って邦題は酷すぎる。
しかも、社会に対する怒りを爆発させている凶暴なドライバー役のラッセル・クロウに“アオってんじゃねぇよ!”と日本語で言わせて、ナレーターが“お前が言うな”と突っ込む予告編はクソの極みだしね。

なんで、“精神的に不安定な”という意味の「UNHINGED」が「アオラレ」になるんだよ!「サトラレ」を意識したのか?

凶暴なドライバーに喧嘩を売ってしまったことから、しつこく追いかけられるハメになる話といえば、スティーブン・スピルバーグ監督のTVムービー(日本などでは劇場公開)「激突!」を思い浮かべる。

話は脱線するが、個人的には「激突!」で凶暴なドライバーの手が一瞬見えたのは残念だと思う。手を見せずに、もしかしたら、人間ではないものの仕業かもと思わせてもいいのにって気はするかな。まぁ、グロいことをやっておきながら、ヒューマニズムも見せるという矛盾したところがスピルバーグ節なんだけれどね。

話を元に戻すが、そういう設定だけだと、「激突!」を想起させるが、ドライバー役のラッセル・クロウは出ずっぱりだから、全然、「激突!」っぽくないんだよね。

それから、社会に対する怒りを増幅させている人間が社会に復讐するという設定だけを見れば、今は亡きジョエル・シュマッカー監督の快作「フォーリング・ダウン」を思い浮かべてしまう。
しかし、同作の主人公・D-フェンスには共感できたけれど(特にハンバーガーが見本写真よりショボいことに怒るシーンとか)、この「アオラレ」のドライバーには全く共感できないんだよね。

しかも、共感できないのはドライバーだけではない。ドライバーにしつこく追いかけられる母親にも全く共感できない。
子育ても家事も仕事もいい加減。そりゃ、夫から離縁を叩きつけられるし、子どもの信用もなくすし、職も失うよねって感じ。
しかも、ドライバーから“殺していい奴の名前を挙げろ”と言われて、平気で人の名前を口に出すような奴だし、そもそも、ドライバーに喧嘩を売ったのは彼女の方なんだから、彼女が謝れば済んだ話なんだし、全く同情できない。

そして思った。この作品は「激突!」でも「フォーリング・ダウン」でもない。これは、サイコな殺人鬼が、自分の目の前に現れた無礼な者を次から次へといためつけていくという内容の数多あるホラー映画だと。本作の終盤で、ドライバーが死んだ場面は曖昧にしているので、その気になれば続編でも作れるのではないだろうか。

見た感想としては、正直言ってちょっと退屈した。
いくらラッセル・クロウ主演とはいえ(すごい中年太りだな…)、全米興行収入ランキング1位獲得とはいえ、見た目は「激突!」、テーマは「フォーリング・ダウン」なのに、実際はほとんどスプラッター・ホラーな内容ではプロモーションに困るのも仕方ないかなと思った。
本作が米国で公開された時期に日本でもドサクサで公開してしまえば良かったのにとは思ったかな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?