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『ルパン三世 カリオストロの城』4K+7.1ch

複数の劇場版が作られたテレビアニメのシリーズは数多くあるが、そのほとんどはそのシリーズのファンやアニオタの間での評価にとどまり、村外、ましてや、シネフィルや映画評論家にまで広がっていくことはまれだ。

何故なら、テレビアニメの劇場版のほとんどは普段のテレビシリーズをちょっと豪華にしたスペシャル版的な作りだからだ。

面白いとかつまらないとかは関係ない。日本の興行記録を塗り替えた「劇場版 鬼滅の刃」に対する評価だって、別にシネフィルや映画評論家は大衆の好むものを見下しているわけではなく、単にテレビアニメをちょっとだけ豪華にしたものを映画と言われてもねと思っているだけだ。
まぁ、「鬼滅」のファンからすれば、そういうのが上から目線に思われてしまうのかもしれないが。

「ドラえもん」のように毎年のように劇場版が発表されているファミリー向けの作品でファンが“名作”と呼んでいるものはほとんどの場合が、自分が子どもの時に映画館で見て夢中になったものをあげているにすぎない。
腐女子向け作品になる前の「名探偵コナン」や毎年劇場版が公開されていた時代の「ONE PIECE」だってそうだ(「ドラ」よりは映画館で見た時の年齢はもう少し上かもしれないが)。

毎年のように公開されていない作品でも、「新世紀エヴァンゲリオン」は、あれだけブームを巻き起こしていながら、映画としてはほとんど語られていない。

その理由はいたって明白だ。旧劇にしろ、新劇にしろ、テレビシリーズの焼き直しにすぎないからだ。旧劇はテレビシリーズの総集編とラスト2話の別ルートという構成だった。

新劇は改めてテレビシリーズの1話からやり直すというコンセプトのもので、最初こそテレビシリーズと同じような展開だったが、徐々にテレビ版とは異なるものになっていくという構成だった。

だから、テレビ版の知識が全くない人間からすれば、単体の映画として評価しにくいのは当然のことだと思う。

「シン・エヴァンゲリオン」はテレビシリーズ、旧劇と2度も“は?”って感じの最終回を経験しているからこそ、やっと、きちんとまとまったラストだと評価できるわけだしね。

そんな中、テレビ版を全く見たことがないような人にまで評価される劇場版を生み出したシリーズもある。

「オトナ帝国の逆襲」、「戦国大合戦」とシネフィルや映画評論家に絶賛される作品を2本も排出した「クレヨンしんちゃん」は例外中の例外だが、それでも、突出した1作品を生み出したシリーズなら、劇場版2作目「ビューティフル・ドリーマー」が評価された「うる星やつら」や、同じく2作目が評価された作品で、同じく押井守作品である「機動警察パトレイバー」などがある。

「ルパン三世」も言うまでもなく、そうした特定の1本に評価が集中しているシリーズの一つだ。

劇場版は主要キャストを総入れ替えして作られた「風魔一族の陰謀」や、CGアニメとして作られた「THE FIRST」も含めると7作品ある。
それ以外にも、ルパン以外の主要キャラを主人公にしたイベント上映的なスピンオフの「LUPIN THE ⅢRD」シリーズ3作品や「名探偵コナン」とのコラボ作品もある。

さらに、2010年代半ば以降は制作ペースは落ちたけれども、長編テレビスペシャルが27本(「コナン」とのコラボを含めると28本)発表されているし、OVA作品も複数発表されている。

でも、これだけの長編やそれに準じる作品があるにもかかわらず、映画として評価されているのは宮崎駿の初の長編映画となった本作「カリオストロの城」だけだ。劇場版1作目「ルパンvs複製人間」は人気が高く、たびたび、テレビ放送されているが、映画としては評価されていないようだしね。

そう考えると、パヤオにしろ、押井守にしろ、アニメ監督ではなく、映画監督なんだなというのを改めて実感する。

ちなみに、「カリ城」を劇場で見たのは今回が3回目だ。

最初に映画館で見たのは1996年のことだった(それ以前にテレビでは鑑賞済み)。「カリ城」、「複製人間」、「風の谷のナウシカ」、「天空の城ラピュタ」、「On Your Mark」という謎の組み合わせの5本立てオールナイト上映だったんだよね。
「On Your Mark」は短編というか実質MVだし、「複製人間」はパヤオ作品ではないし、突っ込み所満載のラインナップなんだけれどね。

その次が、2014年のデジタルリマスター版。

そして、今回の4K+7.1ch版が3度目の劇場鑑賞だ。

映像に関しては、昔のセルアニメだから現在の新作に比べると、そんなに驚くほどクリアになったという感じはしないけれど、過去に見たバージョンよりは明るさが増しているように感じた。

それにしても、改めて実感したが、やっぱり、「カリ城」ってパヤオの最高傑作だよね。

というか、パヤオの全てがこれに入っているって感じかな。

権力に対して批判的なスタンスでいる左翼なパヤオ。
ミリタリー的なものやメカニックなものが大好きなパヤオ。
ロリコンなパヤオ。
腕力的なものか精神的なものかはさておき、強い女性が好きなパヤオ。
そして、何よりもアニメや映画は映像で見せることが大事だというポリシーを貫くパヤオ。
多少の矛盾も気にならないほどストーリー進行がうまいパヤオ。

その後のパヤオ作品全てに共通する要素が既にこの作品には盛り込まれているからね。

それから、久々に見て意外に思ったこともあった。それは、「カリ城」って、こんなに泣ける作品だったっけ?ってことなんだけれどね。

それだけ、自分がロリコンのおじさまになってしまったってことなんだろうね。

風俗嬢やアイドルにガチ恋しそうになるが、自分はそんなことをしている立場でも年齢でもないだろって思うことが年々増えているが、その心情に重なるんだよね。
だから、いくら、クラリスが自分に好意を抱いていても別れることを決意するルパンの気持ちがよく分かるんだよね。
確かに自分に好意を抱いてくれている風俗嬢と結婚したいって思うこともあるけれど、そうはいかないんだよってことかな。

というか、本作のルパンって、駆け出しだった頃に遭遇していたクラリスと十数年ぶりに再会したって設定になっているってことは30代くらいなのかね?
本作が初公開された1979年当時では、30代というのはおじさまというかオッサンだけれど、最近だと若僧扱いだよね…。コロナの感染者とかワクチン接種者のカテゴリーわけでも30代は20代と同じ扱いだしね。

時代は変わったよね。

まぁ、高齢化社会になり、いつまでも50代以上が居座っているから、30代どころか40代だって若僧扱いだしね。というか、いまだに下働きさせられている団塊ジュニアの最年長組は既に50歳になっているからね…。
今だったら、ルパンに対する呼び方はお兄様だよね…。それだと、風俗嬢の客の呼び方になっちゃうか…。

時代の変化といえば、確かに現在の基準で見れば、差別や偏見に満ちた言動とされたり、マナー違反とされたりする描写もあるし、テレビカメラの形状も今とは違うけれど、それでも、初公開から40年以上経っても、そんなに古臭く感じないというのはすごいよねって思う。

そういえば、劇中で世界大恐慌の話が出てきたけれど、大恐慌から「カリ城」の公開までって50年ほどだけれど、初公開から現在まで40年以上経っているってことも驚きだよね。

そして、大恐慌からの50年はすごく世の中が変わったように感じるけれど、70年代末からの40年って、そりゃ、70年代末にはインターネットとかスマホはなかったけれど、そんなに生活は変わっていないよねって感じだからね。

それにしても、見るたびに思うけれど、ルパンたちは決して気持ちの良い連中ではないよね。泥棒なんだしね。

ところで今回は、OVAとして発表されていた作品「ルパンは今も燃えているか?」が併映されたが(劇場公開は今回が初)、なかなか面白い作品だった。上映時間が30分にも満たない作品だけれど、これは劇場版でもテレビスペシャルでもいいから、ゆっくりと長編作品として見てみたかったって感じの内容だったな。
ルパンと仲間たち、そして、これまでに出てきたライバルたちとのIFストーリーってのは、これまでのルパン作品を見たことがある人なら楽しめるしね。

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