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2020年映画興収発表と第44回日本アカデミー賞優秀賞発表

日本映画製作者連盟(映連)が公式に2020年の興行収入を発表した。2000年以降最低の興行収入とはいえ、「鬼滅の刃」が興行記録を塗り替えたし、例年よりは物足りないかもしれないが、興収10億円以上を記録した邦画は21本もある。

本当に、日本はコロナ禍なのかと言いたくなるほどだ。世界的に見ても、異例と言わざるを得ない“好成績”を挙げているテリトリーって、結局、自国産映画が強いうえに、何故かコロナに罹患しても重症化する度合いが世界レベルでは低い日本や中国、韓国といった東アジアだけってことなんだろうな…。

そして、日本や中国、韓国で例年以上に自国産映画が強さを見せたのは、米国映画の供給不足。これに尽きると思う。

何しろ、日本では映連の発表した去年の興収で洋画で興収10億円以上を記録したのは、たったの4本しかないからね。しかも、その4本のうち、最初の緊急事態宣言が明けてから公開された作品は「テネット」の1本しかない。

もう少し詳しく見ていくと、映連の発表した2020年度の興収10億円以上番組では、邦画は21本が大台を突破しているが、このうち、過半数の11本がコロナ禍(一部の映画館で休館が始まった去年2月最終週以降)になってからの作品、3本がコロナというものが意識されだした2月の公開作品となっている。つまり、ヒット作のほとんどがコロナ時代のものということになる。

一方、洋画は年度中でたったの4本しか10億円を突破していない。しかも、1本は2019年の年末公開作品だし、別の1本は一般公開は2020年1月でも、都心部では2019年の年末に先行上映された作品だ。純粋な2020年公開作品で見ると、たったの2本しか大台に達していないことになる。さらにその2本をコロナ禍になってからの公開という枠組みで区切ると、大台突破は「テネット」の1本だけになる。コロナが騒がれだした2月以降公開という枠組みで区切っても「テネット」だけ。

洋画の供給不足というのが大前提ではあるが、それを差し引いても、この結果を見ると、邦画を見る層には洋画好きよりも、コロナは風邪論者が多いということがよく分かる。つまり、邦画好きには、自分の見たい俳優が出ている作品であれば、自分が見たいアニメであれば、構わず映画館に行くという層が多いので、そういう需要がある以上は配給側も、批判されようと何しようと作品を供給するってことなのかな?

これに対して、洋画好きに慎重派が多いのは、邦画よりも観客の年齢層が高いというのもあるが、邦画好きよりも洋画好きの方が社会的意識が高いというのもあるのではないかとも思う。

邦画はほとんどが、身近な範囲の話が描かれているが、洋画は国際的な話が多い。また、邦画では政治家や企業が実名で出てくることはまれだが、洋画では当たり前。

そういう作品の作り方自体が異なるから、洋画派の人は、今は世界がコロナ禍で大変な時期だから、映画館になんか行っている場合ではないっていう社会的意識が強くなるのだろうか?

とはいえ、アジア映画やミニシアター系の洋画は、空席は目立つもののコンスタントに公開されているし、それなりに話題になった作品もあるから、観客の社会的意識は関係ないのかな?

やっぱり、ハリウッド映画を映画館で見るという意識がコロナ禍で薄れてしまったというのが最大の要因なのかな?

欧米では東アジアとは比べものにならないほど、コロナの感染状況が悪化しているから、ハリウッド映画の新作は公開予定の変更が相次いでいるし、中には何度も公開日が延期されているものもある。また、劇場公開を諦めて配信に切り替えたものも多い。

そんな状況だから、ミニシアター系ではそれなりに供給されていても、拡大系は一部のアジア映画を除けば、ほとんど上映されていないからね。まぁ、このままだと、元々、進んでいた邦高洋低がさらに進み、特にハリウッド映画は映画館で見るものではなくなるという意識が強まっていくような気がして仕方ない。

これからは、映画館で見るのは、邦画とアジア映画。欧米作品はミニシアター系のアート作品のみって感じになってしまいそう。

そんな去年の興行事情の発表と同時に、第44回日本アカデミー賞の優秀賞も発表された。毎年言っているが、候補作品や候補者をノミネートと呼ばず、全てを優秀賞受賞作品(受賞者)と呼ぶ、いかにも日本の芸能界的な馴れ合いシステムは、本当、ダサいからやめろと思う。

それはさておき、例によって、その優秀賞の顔ぶれは酷いよね。特に作品賞。劇場公開と同時に配信もしくは劇場公開前に配信された作品(「劇場」など)や、テレビ作品を劇場用に手直しした作品(「スパイの妻」など)は審査の対象外なのに、シリーズの過去作の名場面と新撮場面をまぜた、限りなく総集編映画に近い「男はつらいよ お帰り 寅さん」が優秀作品賞5本の中に入っているのは理解できない。

ちなみに日本アカデミーが審査対象にしないのは、配信映画やテレビ作品を改変した作品(総集編含む)だけではない。1日に1回とか2回だけ上映され、しかも、1週間かそこらで上映が終わってしまうような作品も対象外となっている。

だから、コロナ禍にありながら、2020年度に邦画・洋画合わせて1000本以上の新作が公開されるという世界から見たら異常な状況にもかかわらず、審査対象になるのは、その3分の1ほどの作品のみとなっている。

最初の緊急事態宣言期間やその前後に公開予定だったものの公開が延期された作品、元々、緊急事態宣言期間より後に公開予定だった作品、それらが各々、好き勝手に次から次へと、緊急事態宣言解除後に公開されてしまったから、そりゃ、1日の上映回数も、トータルの上映日数も減るよねとしか言えない。

日本アカデミーの審査対象から外れても、上映回数・日数が減っても、それでも劇場公開作品という箔付けが欲しいというのは、ビジネスとしては理解に苦しむ部分もあるが、そういうのを無視して、とりあえず、当初の見込みよりも減ってもいいから、当座をしのげる目先の金が欲しいってことなんだろうね。

日本の映画界・芸能界は自転車操業の所が多いが、それがコロナで一気に悪化したから、とりあえず、少額でもいいから、何とかやり越せる金が欲しいってことなのかな。

でも、それって、本当に作品のためなのかなって気もするよね。ハリウッド作品が次から次へと公開延期するのは、作品を見てもらえるベスト(とまでは言えなくてもベター)な環境で公開したいからってことだと思うしね。

スタッフ・キャストが無収入になるよりかはマシってことなんだろうが、何かモヤモヤとしたものを感じる。自分たちの目先の金のために、コロナ禍の中、映画ファンに映画館へ通わせるのはどうなんだろうって思うしね。自分さえ良ければいいのかって態度にも見える。その辺の配慮が日本の映画界・芸能界にはないよねって思う。ハリウッドはリベラル思想が強いだけあって、さすがに、そうした人権的配慮はしっかりしていると思う。

まぁ、自分は映画館で映画を見るのが好きだから、映画館が営業していて、見たい映画が上映されていたら、邦画だろうと、洋画だろうと、拡大公開作品だろうと、ミニシアター公開作品だろうと、文句を言いつつも行ってしまうんだけれどね。

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