記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝

今回でクレしん映画はちょうど30作目となる。
コロナの影響で2020年の28作目は9月公開、2021年の29作目は7月公開となつたが、今回は2〜27作目同様、定位置の4月公開に戻った。

そして、これで30年連続でクレしん映画は公開されたことになる。

同じ東宝配給のファミリー向けテレビアニメ劇場版シリーズでいえば、1997年スタートの「名探偵コナン」はコロナの影響で2020年公開予定の新作が翌年に延期されたため、2020年の新作供給はなかった。
1980年スタートの「ドラえもん」はコロナの影響で2021年公開予定作品が今年公開に延期され2021年の新作公開がなかったことに加えて、2005年にはボイスキャストを一新したことから、この年は劇場版の公開がなかった。
1998年スタートの「ポケットモンスター」は2021年は新作が公開されなかったし、今年も今のところ、新作が公開されるという情報は出ていない。

東宝以外の作品では、2000年にスタートした東映の「ONE PIECE」は2009年までは毎年、劇場版が公開されていたが、それ以降は不定期となり、2012年の12作目以降は3〜4年に1本というペースになっている。
同じく東映の「ドラゴンボール」の劇場版は1986年にスタートし、年2本公開された時期もあったが、17作目と18作目の間には17年ものブランクがある。しかも、復活してからは、数年に1本程度のペースとなっている。

実写の松竹作品「男はつらいよ」シリーズは1作目が公開された1969年から48作目が公開された95年までは毎年、新作が発表され、年に3本も公開された年もあったくらいだが、寅次郎役の渥美清が96年に他界してからは、過去作のリニューアル作品が49作目として97年に、総集編と後日談をまとめた作品が50作目として2019年に公開されただけだ。

そう考えると、1993年以来30年連続で1年も欠けることなく、毎年新作を公開している「クレしん」がいかにすごいかが分かるかというものだ。

まぁ、「ドラ」や「コナン」の劇場版に比べると予算は抑えめだしね。

それから、「ドラ」は最大ヒット作の「のび太の宝島」が興収53億円、正式なシリーズにカウントされない「STAND BY ME」が83億円。
「コナン」は現時点での最大ヒット作「紺青の拳」が93億円(最新作「ハロウィンの花嫁」がこれを超せるかどうか注目されている)と特大ヒットを記録している。

その一方で、「クレしん」は興収22.9億円を記録した23作目「オラの引越し物語 サボテン大襲撃」が最大のヒットだから、「ドラ」のようにファミリー層の来場者減少を不安視したりとか、「コナン」のようにコロナ禍で強行公開して熱心なファンが押し寄せて感染症対策の面で批判されることを警戒するなんてこともない。
その辺がコロナ禍であっても、毎年公開される理由なのかな?
「ドラ」はファミリー層、「コナン」は20〜30代女性がコアな観客層だけれど、「クレしん」は1人で見に来るシネフィルも多いしね。

ただ、今回、本作を見た劇場ではここ何作かではあまり見かけることができなかったファミリー層が帰ってきたように思う。
テレビ版の土曜日夕方放送というのがやっと定着し(土曜日に移ってから自分は在宅していても見なくなってしまったが)、ファミリー層が劇場版を見たいと思うようになったのかな?
あるいは、ここ何作(というか、27作目「新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」以降、出来の良い作品が相次いでいることから、再評価されるようになったのか?
もしくは、こうした定番テレビアニメの劇場版というのは、コアな観客層が何年かに1回のペースで入れ替わるが、ここ最近、クレしん映画から離れていた元クレしん世代が、自分の子どもが映画館デビューする年齢になり、それとともに再びクレしん映画を見るようになったとか?
まぁ、3年ぶりに緊急事態宣言がどこの地域でも発令されていないGWとなりそうなので、ファミリー層が安心して映画館にやって来るようになったってのもあるとは思うが。

画像1

それにしても、先述したように、ここ最近のクレしん映画は安定した出来だ!本作も良く出来ていたと思う。

お下品ネタの比率がちょっと戻ってきているのはどうなんだろうかという気はするけれどね。
というか、ひろしとみさえに“しんのすけ”を連呼させるのは卑怯だぞ!
泣くに決まっているだろう!

そして、予想通り、今回のゲストヒロイン・ちよめ役の川栄李奈の声優演技は素晴らしかった!
まぁ、これまでの声優仕事で川栄が声優としても演技力があるのは分かっていたけれどね。
腹話術の時の声の使い分けとかも良かったしね。

それにしても、ゲストキャラが子持ちで妊婦という設定になっていることには驚いてしまった。しかも、最後には老害を女性キャラがぶちのめしたりもするし、意外とフェミな要素があって驚いた。
野原家は、原作がスタートした当初は平々凡々な一家の象徴だった。
しかし、約30年の不況によって、専業主婦の妻がいて、子どもが2人いて、一軒家に住んでいるという自民党やその支持層が好きな日本の“伝統”的家族構成の野原家はすっかり、上級国民になってしまったからね。

「クレしん」は元々、下ネタが多く、ずっと、お尻ブリブリ〜とかやっているのだから、フェミからは嫌われる存在なのに(かつては子どもに見せたくない番組ランキングの常連だったし)、そういう「クレしん」がフェミ的思想を出すようになるというのも時代の流れを感じてしまう。

しんのすけが忍者の装束を着させられる際に、男児が着る緑の装束ではなく、ちよめが子どもの時に着ていたピンクの装束を選んだのも多分、そういう男らしさ・女らしさに縛られるなというメッセージだと思うしね。

くノ一軽視に対する言及が多いのもそうしたフェミ的・リベラル的視線だと思うしね。

そういえば、川栄は朝ドラ「カムカムエヴリバディ」では、時代劇が好きで映画村職員になるヒロインを演じていたが、今回は忍者の役で、のちに観光地になる忍者の里に住んでいるというのは、なんか共通点があるな…。

「カムカム」といえば、同ドラマの信者がやたらと“伏線回収”と騒いでいたが、後出しで“あの時はこうだった”と説明台詞で種明かしするのは伏線回収ではない!
でも、本作でひまわりが途中で謎の行動を取ったことは、のちのトンデモ設定の伏線だと思う。

ちよめ以外のゲストキャラでは忍者少女の風子が良かった。それにしても、その声を雨宮天がやっているとは、エンドロールを見るまで気づかなかった。なかなか良いキャラだった。

というか、花江夏樹も高垣彩陽も悠木碧も出ているってすごいな…。

今まで、クレしん映画のターゲットではなかったアニオタも取り込む気か?
悠木碧は3年前のクレしん映画にも出ていたが。

ところで、見ている間、ちよめの息子・珍蔵が風間っぽい雰囲気だとずっと気になっていたのだが、最後に、この珍蔵がしんのすけに対して、“しんのすけ”と呼び捨てにして呼んでいたので、自分が抱いていたおぼろげな印象は確信に変わった。わざと、風間っぽく描いていたんだね。

画像2

それにしても本作の主題歌を担当している緑黄色社会って、迷走しているバンドだよね。
男女混合バンド、特にリード・ボーカルが女性のグループが見下されるのって、こういう音楽性のポリシーのなさから来るんだろうね。
リード・ボーカルの女性メンバーを売り出すのが目的だけれど、アイドルとかオタサーの姫みたいに思われたくないからアーティストっぽい売り方をしたい。それにはバンド形式が手っ取り早いってことなんでしょって思われてしまうんだよね。

2018年春に1stアルバムを出し、その年の秋にメジャーデビューする辺りまでは間違いなく、サブカル系御用達バンドで、スペシャでもかなりプッシュされていた。
でも、メジャーレーベルはヒットを求めるから、結局、2019年になると、テレビドラマ主題歌となった“sabotage”のような典型的な邦楽曲をリリースするようになってしまう。
当然、それまで彼等をサポートしていたようなサブカル厨や音楽専門チャンネル、FM放送局からはセルアウトしたと思われてしまう。
それで、今度は離れた層のかわりとなるファンを呼びこもうと、2020年にはテレビアニメの主題歌“Shout Baay”をリリースし、アニオタに接触してみるものの、それほど大きなリアクションを得ることはできなかった。

さらには、“Mela!”のMVは本人たちが出演しないアニメーション作品となった。これは明らかに、YOASOBIやヨルシカなどボカロ経由・ネット発アーティストの人気が高まっていることに便乗した作戦とみて間違いないと思う。
この“Mela.!”はこの時点ではそれほど大きな話題にはならず、メジャーデビュー前から知っているリスナーからすれば、“また迷走しているよ”って印象を強めただけだった。
しかし、ストリーミング時代に入り、リリース時に成功できなくても、その後、何かのきっかけで旧曲がヒットするようになったことから、この曲の人気が高まり、いつの間にか彼等の代表曲になっているのは皮肉といえば皮肉かもしれない。

ネット発アーティスト風の“Mela!”路線は受け入れられていないと判断し、その後は汎用型邦楽曲を連発するようになってしまっていたわけだからね…。

今年1月にアルバム『Actor』をリリースしたばかりなのに、早くもアルバムとは関係ないタイアップ曲として本作の主題歌“陽はまた昇るから”をリリースしたのは、ひと昔前のCDが売れていた時代の邦楽アーティストみたいではあるが、まぁ、“Mela!”が失敗したと早とちりしてから以降の活動にいったん区切りをつけ、人気バンドとして再出発しようという意味合いもあったりするのだろうか。

それにしても、クレしん映画の主題歌担当アーティストの顔ぶれって幅広いな…。小林幸子のような大御所クラスが担当したかと思えば、ジェロのような一発屋みたいな人、関ジャニ∞やももいろクローバーZのようなアイドル、あいみょんのような人気絶頂期のアーティストだって歌っているからね。
まぁ、人気バンドとして認知された緑黄色社会の新章のスタートとしては、国民的アニメの主題歌というのはちょうどいいのかもね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?