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僕の大好きな妻!

発達障害というのは周囲の人間には理解しにくい障害だと思う。
差別や偏見に満ちた意見と思われるのは重々承知しているが、他の障害や病気というのは見た目で分かることが多い。たとえば、車椅子や白杖を利用していれば、周囲の誰もが“あの人は障害者”だと分かる。ダウン症のように、その症状を持つ人に独特の表情が見られるものもある。
でも、発達障害はそうではない。だからどうしても、“やる気のない人”とか“仕事や勉強を覚えようとしない人”、“マナーを守らない人”と思われてしまう。

そうした発達障害の人たちへの差別や偏見、そして、その周囲(家族や同僚など)が抱える苦労などを描き、発達障害というものに対する理解を深めようとしたことに関しては本作は非常に意義があるドラマだったと思う。

ただ、原作のタイトルは「僕の妻は発達障害」なのに、ドラマ版は「僕の大好きな妻!」と改題されていることからも分かるように(作中の主人公が描いた漫画のタイトルとしては出てくる)、障害者を描いた作品と判断されて視聴者層が限定されるのを恐れた内容になっていた面も多分にあったとは思う。

そして、これは本作に限ったことではないし、障害や難病を扱ったものに限ったことでもないが、実話を基にした作品って、どうしても、ストーリー展開が唐突に思えてしまうことが多いんだよね。

まぁ、それは仕方ないんだけれどね。

実際の人生では、起承転結とか序破急のように順序立てて物事は進行しない。伏線なしでいきなり大きな出来事が訪れることもあれば、伏線があっても、それが回収されることなく人生を終えることだってある。

ドラマや映画、アニメなどでは登場人物は設定された通りの性格や思想などに基いて行動するけれど、現実世界では、その時々によって、考え方なんて、コロコロ変わるのが普通だ。

だから、実際にあった出来事や実在する人物を尊重すればするほど、おかしな作劇になる、ご都合主義に思えるのは当たり前なんだよね。

発達障害のヒロインが一度クビになった職場(アパレル店)ですぐに再雇用されるなんて、ドラマとしてはご都合主義の極みだけれど、現実世界では出戻りなんていくらでもあるからね。
主人公の先輩アシスタントが漫画家になる夢をあきらめて、家庭を優先すると宣言したのに、すぐに戻ってくるのも同じ。

なので、ドラマとしての本作はほめられたものではないと思う。

ただ、本作に評価すべき点がないかというとそうでもない。

というか、ヒロイン役の百田夏菜子は評価すべきだと思う。

演じた役の話し方が、モデルとなった人物なり、他の発達障害の人なりを参考にしたのかどうかは分からないが、あの話し方のせいで演技が上手いのか下手なのか分からなくなっている部分はあると思う。
また、その話し方によって、この手の障害・病気ものにありがちな、障害者・難病患者を天使扱いする感動ポルノになりかけている面もあると思う。

でも、彼女が演じたからこそ、全8話とエピソード数は少ないものの、最後まで見ることができたのではないかと思う。

ピュアな天使というキャラ設定の是非はともかく、そのキャラに愛着を持って見ることができるようになったということは、夏菜子がキャラ設定を自分のものにしていることだと思うしね。確かに可愛いキャラだと思う。

夏菜子は、ももクロを離れたソロでの演技仕事も定着してきているけれど、意外と演技の幅って広いんだよね。声優演技も結構上手いしね。

それから、NHKが夜に放送するエピソード数の少ないドラマで扱いそうな題材を、深夜枠とはいえ、フジテレビで取り上げたことは評価してもいいと思う。

まぁ、原作はフィクションの部分がかなり多いそうだけれどね。

そう考えると、尚更、全体としては高評価はできない作品だったと言わざるをえないかなって思うかな。
原作がまだ続いているということは、このドラマ版は原作の区切りのいいところでとりあえず終わらなくてはいけないということになるから、ヒロインがアパレル店に再々復帰するという場面で終わることになったのだとは思う。でも、発達障害者を雇用しやすくするためにキャッシュレスを導入するという“オチ”はどうなんだろうって気もするかな。

それから、原作が夫婦の共同名義になっているってことは、ヒロイン(のモデルとなった人物=共同原作者)は結局、アパレル業界を去り、漫画家になったということでしょ。そう考えると、アパレル店に再々復帰してメデタシメデタシというエンディングは違うんじゃないかなとも思うんだよね。

ドラマの前半の方に主人公のかわりにヒロインが漫画家のアシスタント業務を担当し、失敗しながらも評価された話とかあったし、前半は結構、主人公の職場仲間(漫画関係)との交流シーンもあったので、てっきり、アパレル仕事で自身を喪失したヒロインが、連載が決まった(=プロの漫画家として独り立ちした)主人公のアシスタントという形で漫画の世界に入っていくところで終わるのかなと思ったけれど、そうでもなかったようだしね。

結局、世間が求めるハッピー・エンディングというのは、障害者が無事、元の職場に戻ることであり、新たな世界に挑戦することではないというのがよく分かるよね。

多分、ヒロインがアパレル業界を去り、漫画家になるエピソードを描く第2シーズンとかSPドラマというのは一般の視聴者にも求められていないだろうしね。

まぁ、ヒロインのモデルとなった人はドラマとは異なり、アパレル業界をやめて漫画家になろうとしてから主人公のモデルとなった人と出会ったということらしいので、まぁ、実話とフィクションを混ぜて作劇すれば、そりゃ、辻褄が合わなくなるよねって感じかな。

《追記》
ももクロによる主題歌“なんとなく最低な日々”もなかなか良い曲だと思う。最近のももクロでは、「セーラームーン」主題歌の“月色Chainon”に次ぐ良曲かな。

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