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すみだストリートジャズフェスティバル ゼロ

墨田区の存在をネイティブな23区民でない者にも知らしめたのは2012年開業の東京スカイツリーであることは間違いないと思う。
そして、文化の町としての墨田区を対外的にアピールすることに貢献したのが2010年からスタートしたすみだストリートジャズフェスティバル、通称すみジャズだと思う。

墨田区は一時期、非常に閉鎖的な地域だったが、本来は芸者の町・向島を抱えていたし、その向島には戦前、日活の撮影所があった。
また、向島のすぐそばの玉の井と呼ばれていた地域(現在の東向島駅付近)は永井荷風の小説「濹東綺譚」の舞台ともなっている。
さらに遡れば、「富嶽三十六景」で有名な江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎は墨田区の出身だ。

でも、そんな文化の町だった墨田区は、戦後住みついた地方出身者によって閉鎖的な町となってしまい、芸能や芸術に関わる者をバッシングする風潮が高まってしまった。

木の実ナナ(自分の出身中学校の先輩、というか、自分の母親にとっても先輩)、アルフィー・坂崎幸之助、王貞治などといった墨田区出身者が有名になると、墨田区を出ていってしまうのは、そうした閉鎖的な風土の影響があったのだと思う。
交通の便は良いし、都心より空気は良いし、家賃だって安いんだから、出て行った理由はやはり、そうとしか考えられない。

自分はマスコミ関係の仕事をするようになったが、深夜のタクシー迎えが自宅付近に来ただけで隣人に嫌味を言われた。
また、妹の同級生は、ゴールデン枠に放送されるバラエティ番組に出演するほど将来を有望視される存在の若手タレントになりつつあったのに、近所からの罵詈雑言に耐え切れず、芸能活動をやめてしまった。

それくらい、芸能・芸術に関する風当たりが強い地域だった。

そんな墨田区に変化の兆しが見えはじめたきっかけは1997年に開館したトリフォニーホールだと思う。
小澤征爾が桂冠名誉指揮者を務めている新日本フィルハーモニー交響楽団が本拠地としているということも大きいとは思うが。
要は小澤とか新日フィルという権威に弱いだけなんだけれどね。

この頃より徐々に新興住民が増えはじめ、キラキラ橘商店街に芸術家のたまり場みたいなものができたり、ローカルアイドルが誕生したりもした。
そして、スカイツリー招致が決まった辺りから、芸能や芸術に理解を持つ新興住民が一気に増えた。

2006年にオープンした錦糸町オリナス内にできたタワーレコード錦糸町店(現在は楽天地内のパルコに移転)がアイドルイベントに特化した店舗として音楽業界やドルオタに注目される存在になったのもそうした流れの一つと言えるだろう。

こうして、墨田区は本来の芸能・芸術の町としての立ち位置を取り戻すようになり、2010年には錦糸公園をメイン会場とする音楽フェス、すみジャズがスタートした。

正直なところ、スタート当初はいわゆる地域おこしイベントだったので、関係者のみが盛り上がっているだけという印象もあった。
でも、2012年にスカイツリーが開業し、ソラマチも会場の一つなったことから、一気に動員が増え、関係者のみが盛り上がるだけのイベントではなくなった。
スカイツリーを運営する東武は強欲だから、年々、ソラマチ会場の規模を縮小していったが、それでもすみジャズに対する注目度は年々増していった。

その原動力となったのが2015年に墨田区長に就任した山本亨であることは否定できない事実の一つだと思う。

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例年、すみジャズの開会にあたって区長の挨拶が行われるが、前区長の時は正直言って、選挙対策のために祭りに顔を出す政治家って感じの挨拶で中身もたいしてなかった。
しかし、山本の挨拶は墨田区の文化を区外にも発信していこうという強い意志を感じるものになつている。また、開催時期に合わせてTシャツ姿で挨拶しているのも単なる選挙対策ではないと感じられて好感を持てる。

そうした発信力、機動力が、マスコミや他の自治体住民から絶賛される墨田区のコロナ対策、ワクチン対策につながっているのだと思う。

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その結果、スカイツリー会場が年々しょぼくなるのにもかかわらず、すみジャズ自体はコロナ前には約10万人を動員する一大音楽フェスとなった。

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すみジャズと同じ2010年にスタートしたTOKYO IDOL FESTIVAL(こちらも基本は8月開催)はコロナ前の2019年に記録した最多動員が9万人弱だから、すみジャズはTIFを上回る規模の音楽フェスになっているということなんだよね。

勿論、原則全会場入場無料のすみジャズと、コロナ前は無料で入場可能なスペースもあったものの、原則有料のTIFを同じ土俵で単純比較するのは難しいとは思うけれどね。

コロナ禍になって、TIFは2020年はオンライン開催(しかも通常の8月ではなく東京五輪がこの年の夏に開催予定だったので10月開催となった)、2021年はフィジカル開催となったものの、東京五輪のスケジュールの都合で10月に開催された。
今年は、実に3年ぶりの8月開催(勿論フィジカル)となった。ただ、動員数はコロナ前のピークである2019年の3分の1ほどに落ちている。
去年にしろ、今年にしろ、入場制限をしていることから、見ている時間よりも並んでいる時間が多く、しかも、入場料もコロナ前より上がっているため、ドルオタかはら不満の声が高まる結果となってしまった。

一方、すみジャズはというと、2020年はコロナの影響でオンライン開催となった(配信の不具合が目立ったようだが)。また、2021年は8月にプレイベント、11月に本イベントを開催する予定だったが、やはり、コロナの影響でプレイベントはオンライン開催、本イベントは事実上の中止となった(一部動画配信あり)。
8月のプレイベントを配信にするのはともかく、11月の本イベントまで見送ってしまったのは、墨田区のコロナ対策がマンセーと言っていいほど、マスコミなどから絶賛されているので、感染拡大の要因となるフェスを開催しにくい雰囲気になってしまったというのもあるのだとは思う。何しろ、コロナ前はTIFを上回る動員力のあるイベントだったわけだしね。
しかも、ドルオタは元々、コロナ前から現場で中国人オタと接触していたから、中国発とされるウイルスに対する免疫がある程度あったと思うけれど、すみジャズの観客は非オタが大多数だし、しかも、飲食店を会場にしているステージも多いから、慎重にならざるをえなかったのだとは思う。

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そして、今年はフィジカル開催ではあるもののスケジュール的には去年と同じような8月にプレイベント、10月に本イベントという形となった。

おそらく、プレイベントのみ8月に開催し、本イベントを10月とするのは、コロナ対策もあるけれど、熱中症対策の面が大きいのではないかと思う。

また、そうしたスケジュールになった背景にはトリフォニーホールの都合もあるような気もする。

すみジャズは2017年より会期を3日間とし、初日の金曜日をトリフォニーホールで開催するプレイベントと位置付けるようになった。
本来なら本イベントと同じ秋開催でもいいのに、そうしないのは多分、トリフォニーが空いていないからなのでは?実際、今年のすみジャズ本イベント開催予定日のトリフォニーのスケジュールを見ると、新日フィルの公演が予定されているしね。

10月とか11月だと、芸術の秋だからクラシック・コンサートのスケジュールが目白押しだが、暑い夏はそんなに需要がない。だから、トリフォニーで開催されるプレイベントだけ、いつも通り、夏にやろうということなんだろうね。室内だから、熱中症の心配もないし、入場者数を制限すれば、コロナ感染リスクも抑えられるしね。
まぁ、今回のプレイベントはトリフォニーだけでなく屋外を含む周辺の複数の会場でも行われるので、熱中症やコロナのリスクはゼロではないものの、屋外会場は親水公園だから、錦糸公園でやるよりから熱中症リスクは低いとは思うけれどね。

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あと、分散開催にした理由としては意地でも今年はフィジカルで開催したいという思いもあったのではないかと思う。

一般的にイベントというのは3年連続で中止もしくは、オンラインなどイレギュラーな開催となると、そのままフェイドアウトしてしまうと言われている。

TIFは開催時期こそずれたものの既に去年は、台風の影響で会期は1日減ったとはいえ、フィジカル開催に戻っているので消滅の危機は免れているが、すみジャズは2年連続でフィジカル開催が見送られてしまった。つまり、今年開催されなければ、来年、スポンサーやボランティア、ミュージシャンなどが集まらず、このまま消滅してしまう可能性があるということだ。

8月のプレイベントは去年のTIFのように台風の時期なので中止になる可能性はある。実際、今回も前日時点では開催判断は当日の午前8時と言っていた。台風の進路次第では交通機関への影響も出るだろうから、室内会場のトリフォニーだって、中止になる可能性はある。

でも、本イベントの開催時期をずらしておけば、プレイベント・本イベント揃って中止の可能性は少ないと見たのではないだろうか。
つまり、プレイベントは中止になったとしても本イベントは余程のことがなければ中止にならないという見立てだ。

出演者や関係者にコロナ感染が相次いで公演が中止・延期になるケースはいまだに多いが、全国や各自治体の感染状況を理由にイベントが中止・延期となるケースはほとんどなくなった。
でも、熱中症や台風の影響による中止の可能性はある。だから、プレイベントは開催できたら御の字くらいの気持ちだったのではないかという気もする。

開催できたのであれば、それは10月の本イベントに向けての公開リハーサルのようなものにもなるので、運営側にとっては2年間、フィジカル開催されなかったことにより失われつつあったカンを取り戻す絶好の機会にもなる。そのくらいの気持ちでいるような気もする。

というわけで、プレイベント「ゼロ」を見に行った。

すみジャズに初めて接したの2011年だが、この時はステージ前を通りかかっただけだった。
きちんと見たのは2012年が最初だが、この時はスカイツリー会場しか見ていなかった。
錦糸公園のステージを見るようになったのは2013年からだ。
以降は他のイベント参戦の都合だか、仕事の都合だか忘れたが、1回だけ、ちょっと会場を通りかかっただけの時があったが、コロナ前の2019年までは、ほぼ毎年参戦していた。
オンラインの2020年はちょっとだけ見たが、配信トラブルを起こしていたのですぐに見るのをやめてしまった。その“トラウマ”があるのか去年の配信は見なかった。

というわけで、実に3年ぶりのすみジャズ参戦となった。

とりあえず、大横川親水公園会場に行ってみた。
親水公園だけあって風が気持ち良かった。

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最初のパフォーマー、Happy Fragranceの前に墨田区長が開会の挨拶をしていた。
墨田区長のスピーチを生で見るのは3年前のすみジャズ以来だ。そして、彼のスピーチを聞いて思った。やっぱり、彼になってから墨田区の情報発信力は確実に向上したよね。

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Happy Fragranceはベートーヴェンの第九をジャジーにアレンジした楽曲が良かった。
第九というと年末のイメージがあるけれど、アレンジによっては夏向きにもなるんだということが分かった。

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その後、トリフォニーホール会場へ移動した。
目的は立志舎高等学校 吹奏楽部(りっしすいぶ)の演奏を見ることだ。

すみジャズのレギュラーだからね。

2020年、21年とフィジカル開催は見送りになってしまっから、20年入学の現・3年生は今回が初のステージとなる。
今年もフィジカル開催見送りとなれば、20年入学組は一度もすみジャズのステージに立つことがなく卒業となってしまうのだから、まずは無事開催されて良かったってところかな。
やっぱり、すみジャズ出演って、吹奏楽部の活動の中でもかなりのキモになっていると思うしね。吹奏楽部ができて15年らしいから、その傾向は強いと思う。
芸術関係の大学・専門学校に進学したり、芸能界に進出したり、楽器店やライブハウスの店員になったりする人は別だけれど、卒業後はただの音楽リスナーになってしまう部員もかなりいるだろうしね。
コロナって、本当、色んなものを奪っていったよね…。

そして、今回の会場は普段の錦糸公園ではなくトリフォニーということでメンバーも約50人と大幅に増え、立志舎専門学校 Brass bandと合同でのパフォーマンスとなった。
女子メンバーのうち、パンツルックだったのが専門学校生でmスカート姿だったのが高校生なのかな?

3年ぶりのパフォーマンスということで、ちょっとグッとくるものがあった。日本を元気づける曲メドレーとして、その中でKANの“愛は勝つ”を演奏していたが、まさか、“愛は勝つ”で感動しそうになるとは思わなかった…。

それにしても、この学校に限ったことではないけれど、最近の吹奏楽部が演奏する楽曲ってジャズやクラシックを含む洋楽よりも邦楽が増えているよね。今回のステージでも映画「スウィングガールズ」に使われた楽曲のメドレーとしてビッグ・バンドの定番曲が演奏されただけだしね。
それだけ、今の若者が洋楽に興味を持っていないということなんだろうね。
だから、洋楽を演奏しても身が入らない。だから、カバーする曲も邦楽中心になってしまうのかな。

ところで、いくらこういうフェスなどでプロと接するとはいえ、日本の芸能人にのみに“さん付け”をするようなMCは何か、高校生・専門学校生らしくなくて、何か好きになれないなと思った。高校生や専門学校生は芸能や芸術に関する部活をしていようと、そういう分野を専門的に勉強していようと、著名人は呼び捨てにした方が自然だと思うんだけれどな…。

まぁ、小学校の頃から同級生をあだ名で呼んではいけない。“さん付け”にしろなんて教育を受けているから、そうなってしまうんだろうね。

それから、コロナ前から思っていたことだけれど、ここの顧問の先生って脚が悪そうなのに、指揮している最中って、めちゃくちゃ体を動かしているよね。見るたびに感心してしまう。

《追記》
ニノやアルノって、ここの卒業生なのか…。

それから、トリフォニーの最前席に座ったの初めてだけれど、ここのステージって、あんなに低かったのか…。

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