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「かがみの孤城」年末に年間ベスト作品を見ることができた

洋画・邦画問わず、OVAのイベント上映作品やテレビ放送に先駆けての先行上映イベント、一つの番組として単独で上映された短編・中編なども含めると、今年劇場で鑑賞したアニメーション作品はこれで56本となる(手描き、CG、ストップモーションなど形態も問わない)。

映連による公式の2022年度の年間ランキングはまだ発表されていないが、今年度の日本の興収ランキングのトップ5は「トップガン マーヴェリック」以外は全て国産アニメ映画だ(21年末公開だが映連の規定では22年度作品となる「劇場版 呪術廻戦0」を含む)。
現在の日本の映画興行は日本映画が強いのではなく、国産アニメ映画が強いだけというのがよく分かる構図だ。

実写作品に限定した2022年公開作品のトップ5を見ると、5本中3本が洋画、しかも、ワンツーフィニッシュ(1位は「マーヴェリック」、2位は「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」)だから、実写日本映画は決して好調ではない。

まぁ、洋画限定のトップ5を見ると「マーヴェリック」など3作品が東和ピクチャーズ・東宝東和といった東宝グループのハリウッド・メジャー系配給会社の作品で、残りが日系ハリウッド・メジャーのソニーと、邦画も作っているハリウッド・メジャーのワーナーが1本ずつで、ディズニーや独立系が苦戦しているということを見ると決して洋画も復活しているわけではないんだよね。

ちなみに、「呪術廻戦」以外のトップ5に入ったアニメ 映画の顔触れはランキング首位確定の「ONE PIECE FILM RED」、新海誠作品として3作連続で興収100億円突破となった「すずめの戸締まり」、年間トップ5で唯一100億円に届かなかった「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」となっている。4本中3本がテレビアニメの劇場版だ。

つまり、国産アニメ映画好調と言っても、劇場用オリジナル作品は受け入れらていないのが現状だ。トップ5内でオリジナル作品は「すずめの戸締まり」だけだ。
今年公開の興収10億円以上を記録したアニメーション作品でオリジナル作品は海外作品の「ミニオンズ フィーバー」、「SING シング ネクストステージ」、「バズ・ライトイヤー」の3本だけだが、これらはいずれもシリーズものだ。

つまり、テレビアニメの劇場版でもシリーズものでもないアニメーション作品のヒットは国産だろうと外国産だろうと難しいということだ。

国産アニメ映画の劇場用オリジナル作品で「すずめ」に次ぐ数字をあげたのは「犬王」だが、興収はたったの3億円だ。大雑把に言ってしまえば、「すずめ」の33分の1の成績だ。

結局、テレビアニメの劇場版を除くとヒットするのは国産では新海誠、細田守くらいってことなんだろうね。開店休業状態のジブリは来年、パヤオの久々の新作が公開されるからヒットはするとは思うし、ジブリから枝分かれしたようなポノックの6年ぶりとなる長編もあるのでこれもヒットは期待されているとは思うが、基本は新海・細田・ジブリ以外は当たらないってことなんだよね。

海外作品について振り返ろう。

ディズニーはDisney+に注力したせいで、日本では劇場がディズニー映画の上映に非協力的になったし、一般は配信で見るものと思うようになってしまったので、コロナ禍になって、ピクサーの「バズ・ライトイヤー」を除けば興収10億円を突破したアニメーション作品は1本もない。

米国以外の国や地域のアニメーション映画はミニシアターでシネフィルが見るだけだから、ほとんど数字にはあらわれない。

唯一、支持されているのが、キャラクターが日本受けしやすいイルミネーション作品だけ(「SING」、「ミニオンズ」)となっている。あとはたまに、ドリームワークス作品がヒットするくらいだ(映連の規定では22年度扱いとなる21年12月公開の「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」が興収10億円を記録)。

何故、国産の劇場用オリジナルアニメ映画はヒットしないのかといえば理由は明白だ。

送り手と受け手の間のミスマッチだ。

送り手側はジブリ作品やディズニー映画のように幅広い層に見てもらいたいと思っている。
だから、実写作品に出演している俳優や芸人、アイドルなど一般知名度の高い人たちを声優にキャスティングする。

ところが一般(非オタ)からすると、こうした劇場用オリジナルアニメのストーリーや設定、キャラデザはいかにもオタク向けのものにしか見えない。実際、異次元転生的な話が多いしね。

また、アニオタには本業でない者が声優を務めることを極端に嫌う連中が多いので、こうした人たちがメインキャラの声優を担当している作品は興味の対象外になってしまう。

テレビアニメの劇場版が非オタにもアニオタにも受け入れられているのは、ゲストキャラを除けば既に声のイメージが定着しているからというのが大きいのではないかと思う。

そう考えると、オタ向きの話なのに一般に支持されている新海や細田は別格って感じだよね。

本作「かがみの弧城」もそうしたオタ向きの内容なのに、非オタの動員を意識して本業でない者を大量に声優として起用した作品だ。
だから、公開1週目の興行成績は微妙な結果となっている。観客動員数ランキング初登場6位だからね…。
12月に入ってからずっと首位を独走し興収50億円を突破した「THE FIRST SLAM DUNK」(いうまでもなく、ブランクはあるけれどテレビアニメの劇場版)、これが公開されるまでは首位を独走していて興収100億円を突破した「すずめ」と比べるとかなり寂しい数字だと思う。もっとも公開1週目だけで興収1.4億円と「犬王」の半分近い数字をあげているので、このペースで進めば2022公開の国産劇場版オリジナルアニメとしては「すずめ」に次ぐ2番手になれそうだから、大健闘ではあるんだけれどね。

そんなわけで、多少の不安を感じながらも本作を見ることにした。

いや〜、泣けた!
年末に見た作品がその年のベスト映画ランキングをあっさりと塗り替えるのはよくあることだけれど、これもそうした1本となった。

今年見たアニメーション作品では、一、二を争う良作だね。ちなみにそのライバル作品は「ギルレモ・デル・トロのピノッキオ」だけれどね。これも泣けた!

まぁ、本作は原恵一作品だから泣けるのは当たり前と言えば当たり前なんだけれどね。

宮﨑あおいが声優としてではあるものの5年ぶりの映画出演となったのも、彼女が声優として出演していた原恵一作品「カラフル」と通じるテーマを描いているからなんだろうね。

ただ、演技面ではちょっとブランクを感じてしまったかなというのが本音かな…。

本業でない声優と言えば、これまでにも多くのアニメ映画に参加している芦田愛菜先輩についても語っておかなくてはならない。
予告を見た時は正直なところ、“こんなに声優演技が下手だっけ?”と思ったけれど、本編を見ると、なかなかの好演だった。というか、彼女が演じたキャラクターの正体を考えれば、あの演技のアプローチは正解なんだよね。


まぁ、全体としてはツッコミどころが多い作品だったけれどね。

午後5時を過ぎても“かがみの孤城”の中にいると狼に食べられてしまうという設定だけれど、約束を破ったメンバーと連帯責任を取らされたメンバーを救うために主人公が城の中に入った時間帯って夜だよね?彼女は食べられないのか?居座るのはダメだけれど、5時以降に入るのはOKなの?

それから、宮﨑あおい演じるフリースクールの先生にしろ、芦田先輩演じる狼のマスクをかぶった謎の人物(MAN WITH A MISSIONか?)にしろ、分かりやすい伏線をはっているから簡単に途中で正体が分かってしまうのはどうかとも思ったけれどね。

でも、メッセージ性はとても良かった。今の日本のアニメってネトウヨ化しているアニオタに媚びて政治性・社会性の薄い作品ばかりだから、ジブリ以外のアニメ映画でアカデミー長編アニメーション賞にノミネートされたのは細田守の「未来のミライ」しかないという状況になっているけれど(しかも、この「ミライ」は日本のアニオタには嫌われている)、本作はそうしたメッセージもしっかりと描かれている。

学校でいじめが起きた際に学校側が問題がなかったことをアピールするために加害者と被害者に対話をさせるなんてありえないことだけれど、そうしたことを平気でする日本の教育機関への批判は見ていて爽快な気分になった。

また、親による子どもへの性的虐待の問題なども描写は抑えているもののきちんと取り上げていた。
2022年中に米国で公開されていれば、アカデミー賞候補になれたのではないかと思う。

あと、作画面も良かった。日本のアニメ映画というのは、背景に映るモブキャラは静止していることが多いけれど、本作ではきちんと動いているんだよね。それに“かがみの孤城”は外観も内観もしっかりと描いている。技術面でも賞レース向きの内容だなと思った。

とりあえず、学園生活でいじめや無視の被害にあった経験がある人、そこまでの実害はなくてもスクールカーストで下層にいた人なら、泣かずにはいられない作品だと思う

小学校の時、自宅隣が公園だったことから、よく自宅にボールをぶつけてくる連中が多く、そうした行為をした連中を祖母や父親がよく注意していたんだけれど、その腹いせで家庭科の道具をトイレに捨てられたりとか、ほぼ、いじめと言っていい嫌がらせを受けていたしね。

それから、高校の時は葛飾区議のクソ息子に喧嘩を吹っかけられて、それに応じただけなのに、というか、クソ息子は金魚のフンみたいな連中を含めて10人くらい、こっちは1人でバトルしたのに、権力に媚びたアホ担任がクソ息子に肩入れしたせいで、こちらは停学処分にさせられかけたこともある(さすがにこの時は他クラスの教師がそれはおかしいでしょと言ってくれたので停学は免れたが)。

そうした経験を持つ者からすると、本作に登場する学校に居場所のない少年少女の気持ちがよく分かるんだよね。

特に同級生や教師に対する怒りはめちゃくちゃ共感できた!

あと、主人公のこころが可愛い!

それにしても、松竹配給の劇場用オリジナルアニメ映画って、2020年の「ジョゼと虎と魚たち」とか、2021年の「サイダーのように言葉が湧き上がる」、そして今年の本作と良作が多いけれど、なかなか大きなヒットにつながらないよね…。ちょっと残念…。


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