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パワー・オブ・ザ・ドッグ

ジェーン・カンピオン監督久々の新作を鑑賞した。
こういう言い方をすると、女性蔑視だと批判されてしまうとは思うが、良くも悪くも女性監督作品らしい映画だと思った。

かつて、いわゆる腐女子が好むようなものを“ヤオイ系”と呼んでいた時代があった。ストーリー展開に、ヤマもオチもイミもないことから、揶揄する意味も込めてそれぞれの頭文字を取ってヤオイと呼んでいた。

映画マニアだろうと、アニオタだろうと、読書家だろうと、男の熱心なファンには細部にこだわる人間が多い。シーンとシーンのつながりとか、登場人物がある行動を取るに至った背景とか、時代考証が正しいかとか、そういうことがどうしても気になってしまう。自分もそうだ。

ところが、女性の観客・視聴者・読者というのは、そういうのにこだわらない人が多いんだよね。

面白ければいいでしょ?
登場人物がカッコよく・可愛く見えればいいでしょ?
映像がきれいならいいでしょ?

そういう考えの人が多い。
しかも、受け取る側だけでなく、作る側にもそういう人が多い。

本作にもそういうところが見受けられた。

映像は美しいけれど、唐突に話が進行するところがあったかと思えば、説明台詞であっさりと進行されたりするところもあるし、曖昧な描写も多い。

1925年のモンタナ州が舞台ということだが、男の登場人物がほとんど西部劇みたいな格好をしているのは時代考証的に合っているのかと思ったりもした。1925年といえば、現在放送中の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」の主人公が生まれた年だからね…。「カムカム」の描写を見ていると、当時はまだ先進国とまではいっていなかった日本の岡山の方が先進国の米国より栄えて見えるのはどういうことって気もするしね。

その一方で、ヒロイン(といっていいのかは分からないが)の服装は西部劇っぽい時もあれば、現代劇の女性キャラクターみたいな時もある。特に白いセーター姿のシーンなんて、現在の女性にも見えるくらいだった。

それから、登場人物の扱いに関しても疑問に思うことがあった。
クレジット上では、牧場を経営する兄弟の粗暴な兄の方を演じるベネディクト・カンバーバッチがトップ、つまり主演ということになっているが、彼を中心にストーリーが進んでいるかというとそうでもない。

俳優としての格とかの問題でカンバーバッチを主演扱いにしているだけで、実際のストーリー進行上の主役は弟の方かというとそうでもない。何しろ、途中で長々と出番がなくなるしね。

では、弟と結婚した未亡人が主役かというと、そうでもない。息子に対する偏愛的な態度とか、アルコール依存症とか、再婚相手の兄に対する嫌悪感とか、いくらでもふくらませられる題材があるのに、どれも投げっぱなしで終わっている。ぶっちゃけ、主役どころかヒロインにもなっていない。

なら、その未亡人の息子がメインかというと、そうでもないんだよね。やはり、彼も途中で出番が長々とないところがあるからね。

まぁ、全5章構成なので、パートごとに主観的立ち位置になるキャラクターは変わっているから、人数は多くはないけれど、この4人の群像劇と捉えるのが正しい見方なのかも知れないとは思ったかな。

しかも、終わり方も後味が悪いんだよね…。

そんな曖昧な内容にもかかわらず、本作はNetflix映画であるために劇場公開は限定的となっている。
でも、これは劇場で見た方が良いと思う。自宅でPCやスマホの小さいスクリーンで見ていたらよく分からないと感じて睡魔に襲われてしまうと思う。この緊張感は映画館のスクリーンと音響設備で見ないと味わえないと思う。

とはいえ、評価したいところも結構ある。

というか、映画館で見ると結構面白い。淡々と進むうえに曖昧なストーリー展開なのにね。それから、カンバーバッチの演技は賞レースを賑わせること間違いなしだと思う。

はっきりとは描いてはいないけれど、同性愛や近親相姦的な描写もある。また、そうした描写などを通じて、同性愛者や女性への差別、職業に対する偏見みたいなものへの問題提起もしているのだと思う。ネイティブアメリカンが終盤に出てきたので、おそらくは人種差別問題も含んでいるのではないだろうか。
だから、カンバーバッチの演技だけでなく、作品賞や監督賞ノミネートもかなり有力だと思う。
レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによる音楽も作曲賞候補になるかもね。

音楽といえば、ヒロイン(一応)がピアノを弾くシーンがあったが、そういう場面を見ると、嫌でもジェーン・カンピオン監督の代表作である「ピアノ・レッスン」を思い浮かべるよね。

そして、このヒロイン(一応)が、何度もつかえながら練習している曲が“ラデッキー行進曲”というのも印象的だった。
元日のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートのアンコール曲としてのイメージが強すぎるから、どうしてもこの曲を聞くと手拍子したくなってしまう。
そういえば、今年のニューイヤーは無観客開催だから観客の手拍子がなかったけれど、年明けのニューイヤーでは復活するのかな?

そういえば、ピーターという登場人物(未亡人の息子)がワナを仕掛けてウサギを捕まえてくるシーンがあるが、これって、ピーター・ラビットって言いたいのか?


《追記》
本作をイオンシネマ板橋で見たが、劇場スタッフに邪魔者扱いされた。まぁ、地方出身の新興住民が多い土地柄で子ども連れの観客が多いから、家族連れが上客なんだろうけれどね。
でも、こういう1人で見にくる映画マニアを邪魔者扱いするなら、ネトフリ映画の限定上映など、こうしたシネフィルや映画マニアが見たがる作品を上映すんなよって思う。

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