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夏の三木孝浩まつり②「TANG タング」

この夏2本目の三木孝浩監督作品「TANG タング」が公開された。

ここで、三木孝浩監督作品を振り返ってみよう。

ソラニン(2010年)
管制塔(2011年)
僕等がいた 前篇・後篇 (2012年)
陽だまりの彼女(2013年)
ホットロード(2014年)
アオハライド(2014年)
くちびるに歌を(2015年)
青空エール(2016年)
ぼくは明日、昨日のきみとデートする(2016年)
先生!、、、好きになってもいいですか?(2017年)
坂道のアポロン(2018年)
フォルトゥナの瞳(2019年)
思い、思われ、ふり、ふられ(2020年)
きみの瞳が問いかけている(2020年)
夏への扉 -キミのいる未来へ-(2021年)
今夜、世界からこの恋が消えても(2022年)※公開中
TANG タング(2022年)※本作

キラキラ映画の巨匠と呼ばれるだけあって、少女漫画やラノベ、もしくはそれに準じた世界観のコミックや小説を実写化した学園ものだらけだ。

長編映画監督デビュー作である「ソラニン」は学園ものではないが広義の青春映画だし、「くちびるに歌を」は教師が主人公ではあるが、舞台は中学校だから、これも広義では学園ものと言っていいと思う。また、「管制塔」はコミックやラノベの実写映画化作品ではないが、中学生の話だ。

そう考えると、三木孝浩が初めて、キラキラでない映画を撮ったと言えるのは、死を目前にした人間を判別できる能力を持った社会人を描いた2019年の「フォルトゥナの瞳」ということになる。

もっとも、この設定はほとんどラノベだし、それ以前にも、「陽だまりの彼女」や「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」といったファンタジー要素のあるキラキラ映画を撮ってはいたので、新機軸とまでは言えなかった。

これは、目の見えない女性と元ボクサーの恋愛物語「きみの瞳が問いかけている」(これも「フォルトゥナの瞳」同様、“視力”の話だ…)にも言えることだ。ラノベっぽいツッコミどころ満載の内容だからね…(チャールズ・チャップリンの名作中の名作「街の灯」にインスパイアされた韓国映画「ただ君だけ」のリメイク)。

また、「夏への扉 -キミのいる未来へ-」は海外SF小説の映画化だけれど、日本を舞台にして翻案したことによりラノベっぽい感じになってしまったので、これもテイスト的にはキラキラ映画に近い。

こうやって、三木孝浩作品を振り返ってみると、本作はファンタジー要素のある作品としては初挑戦ではないけれど、キラキラ要素・ラノベ要素のない作品としては初挑戦になると言っていいのではないだろうか。

というか、VFXやCGを使い、いかにも日本人受けしそうな感動路線も盛り込んだ作品ということで言えば、山崎貴あたりが撮ってもおかしくない題材だ。

ちなみに、本作を見ようと思った動機は、何故か1本を除いて、これまでの作品を全て公開時に見ている三木孝浩作品だからというのもあるが、それと同時に大きな理由となっているのが二宮和也主演作品というのもある。

ニノは個人的には、木村拓哉、岡田准一と並ぶジャニーズ3大映画俳優の1人だと思っている。
もっとも、キムタクはあくまでもスターだし、殺陣や撮影にも関わる岡田は映画人とカテゴライズすへきだ。だから、純粋に演技で評価するとなると、ニノが現在のジャニーズではトップクラスの演技派だと思う。

2006年のクリント・イーストウッド監督作品「硫黄島からの手紙」などで既に演技力は評価されてはいたものの、それ以降の出演作品にはコミック原作作品やテレビドラマの劇場版などが続き、なかなか、俳優・二宮和也に対する評価が確立できなかった面もあったとは思う。

シネフィルが本格的に俳優としての二宮和也を意識しだしたのは、2015年の山田洋次作品「母と暮せば」ではないだろうか。同作以降の出演映画のラインナップを見てみると(声のみの出演作品や、嵐のライブ映画を除く)、シネフィル好みの監督が手掛けた作品が続いている。
2017年の「ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜」では滝田洋二郎、2018年の「検察側の罪人」では原田眞人といった大物監督と組んでいるし、2020年の「浅田家!」はミニシアター系作品で注目された中野量太監督作品だ。

なので、キラキラ映画の巨匠・三木孝浩とタッグを組んだ本作は最近のフィルモグラフィーの中ではちょっと異色の組み合わせと言えるのかも知れない。つまり、三木孝浩にとっても、二宮和也にとっても、本作は新境地ということだ。

結論から言うと、想像通りのツッコミどころ満載、ご都合主義だらけ、スキだらけの脚本・演出といった感じの作品だった。
とりあえず、ぶん投げた入館証はきちんと回収しようよ!
あと、海外小説を翻案しているから仕方ないんだろうけれど、台詞回しが海外ドラマを吹き替え版で見ているような感じになってしまっているのも難点かな。
それから、タイトルになっているロボットの名前「TANG」の命名の由来がトラックに書かれていた谷川(TANIGAWA)の文字が薄くなって、読み取れる部分が冒頭3文字のTANと1文字飛ばしてGだけだったから、TANGって、何だそれって感じだな…。

ついでに言うと、中国・深圳を舞台にしたシーンなのに、きちんとした台詞があるのは日本人だけってのもリアリティがなさすぎる!
そして、その深圳のシーンに出てくる研究者役の奈緒が、いかにも、奈緒がやりそうなぶっ飛んだ役であることも気になる。また、この深圳のシーン以外にも登場するが、人気芸人を出すとコントみたいになってしまうからやめた方がいいと思うんだよね。

ただ、満島ひかりをここまで可愛く撮れたのは、キラキラ映画の巨匠・三木孝浩だからというのはあるのではないかと思う。他の監督の作品だと、満島ひかりは演技派女優とか個性派女優にしか見えないけれど、本作では非常にキュートだったからね。それには感心した。

それから、ネトウヨ老害が年々悪化している武田鉄矢を、ロボットを軍事利用しようとする悪の研究者役で起用しているのは、見事なキャスティングだと思った。

ニノの演技自体についても語っておこう。
映画では最近、いかにも演技派俳優が演じそうな役が続いていただけに、たまにはこうした冴えない男の役も新鮮でいいなとは思った。

それにしても、ジャニーズ主演映画の公開初週とは思えないほど空席が目立っていたな…(いくら悪天候とはいえ)。
嵐のファンは去年のライブ映画で燃え尽きてしまったのかな?
というか、ファンは嵐のメンバーとしての誰々に興味はあっても、嵐が事実上の解散状態にある現在では、俳優・タレントの誰々になってしまっているし、しかも、ニノは既婚者だから、アイドル的な興味は持てないってことなのかな?

とりあえず、自宅に紛れ込んだ謎の“人外”と交流を深め、その“人外”を狙う研究者らと主人公が戦うというのは「E.T.」だし、感情を持ったロボットと関係を深めていくというのは「ショート・サーキット」だと思うが、そうした80年代のハリウッド製SF・ファンタジー映画みたいなテイストを出したかったんだろうなというのは分かった。

《追記》
miletは映画やドラマの主題歌を次々と担当しているけれど、似たような曲ばかりだな…。
まぁ、製作サイドの要望に応えて作っているから、同じような曲になっているんだろうけれど。


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