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アクターズ・ショート・フィルム3 上映イベント「Prelude~プレリュード~」

土屋太鳳と有村架純というのは同世代(正確に言うと有村架純が2つ年上)だし、朝ドラ助演で注目され(土屋「花子とアン」、有村「あまちゃん」)、その後、朝ドラ主演(ヒロイン役)を務めるようになる(土屋「まれ」、有村「ひよっこ」)というブレイクの仕方も似ている。

また、注目された直後にキラキラと呼ばれるジャンルの作品を中心とした学園モノ映画に主演やヒロイン役で出演しファン層を拡大する(土屋「orange -オレンジ-」、「青空エール」など、有村「ストロボ・エッジ」、「ビリギャル」)というキャリア形成の仕方も同じだ。

しかし、共通しているのはそこまでだ。

有村架純がすぐに学園モノから卒業したのに対して、土屋太鳳はその後もしばらく学園モノに出演している。
また、有村は「太陽の子」のような歴史モノや「前科者」のような社会派作品に出るようになりキャリアを積んでいったが、土屋は「哀愁しんでれら」や「大怪獣のあとしまつ」のようなクソ映画への出演が相次ぐ事態となっている。

完全に差をつけられてしまったと言っていいと思う。しかも、土屋太鳳は結婚してしまったのでこれまでのようにアイドル女優的人気を保つことは難しい。

そんな2人がタッグを組むことになったのが本作だ。

これまでに2人が共演した作品は1本しかない。それは「るろうに剣心 最終章 The Final」だ。実写版「るろ剣」シリーズは全5作が発表され、そのうち土屋は3本、有村は2本に出演しているが、2人とも出ているのは1本だけというのは不思議だ。まぁ、それでも両者が揃ってキャスティングされているというのは、やはり、ファン層が近いと思われているからなんだろうなとは思う。

このほか、間接的な“共演作”としては「僕だけがいない街」がある。2016年にマルチメディア戦略として同時期にテレビアニメ版と実写映画版が発表されたが(そういえば、こういうやり方一時期流行ったよね)、土屋はアニメ版で主人公、有村は実写版でヒロイン(でいいのかな?)を演じていた。

そんなわけで、本作は初めて本格的に2人が組んだ作品と言っていいのではないだろうか。

土屋が監督と主演。有村が主人公の親友役で共演という形になっている。

28歳の土屋、30歳の有村が女子大生役というのは年齢的には微妙かも知れないが、2人ともどちらかと言えば童顔だし、土屋は約4年前までキラキラ映画に出ていたことを考えれば、女子大生を演じてもおかしくはないのかなという気もする。

本作における有村の演技に関しては、いつもの親しみやすいかすみんという感じで、絶賛することも酷評することもないように思える。まぁ、短編ではあるが監督業に初挑戦した土屋に協力するという立場の友情出演に近い感じなのかな。

土屋に関しては新たな発見があったと言っていいと思う。

バレエ経験がある踊りを学ぶ女子大生の物語という土屋本人の経歴とかぶる私小説風の作風である上に、介護に関する問題提起や反戦のメッセージ、警察などに対する批判など左寄りの主張も込められていて、普段のクソ映画ばかりに出ている女優のイメージとはかなり異なり驚いた。監督・脚本家として伝えたいメッセージを持っていて、単なる依頼されたから監督ごっこをしてみましたという感じではなさそうだ。

そして、本作の主人公はこれまでのクソ映画の数々で演じた人物とは異なるタイプのキャラクターなので女優としても新たな一面を見せることができたのではないかと思う。
結局、本人は社会派の作品、ドラマ性の強い作品をやりたいと思っているが、声質が決して女優向きとは言いにくいものだし、どうしても彼女のビジュアルを見ると胸に目が行ってしまうしということで社会派作品にはキャスティングしにくいから、これまではクソ映画のオファーばかりが来ていたということなんだろうね。
結婚によって、アイドル女優的な需要は減ると思われるので今後は社会派路線に徐々にシフトしていけるんじゃないかなという気もする。

まぁ、得意の踊りを披露する場面がクライマックスになっていて彼女のプロモーション・ビデオみたいになっていたのはどうかと思う人もいるのではないかな…。

また、最近はデジタル編集をするようになりベテラン監督の作品でも無視されることが多いけれど、イマジナリーラインがグチャグチャなのは気になった。2人で会話しているシーンでそれぞれの画面上での位置がコロコロ変わるのは本来は良くないんだけれど、一般人でも動画を投稿できる時代になったおかげで、イマジナリーライン無視の映像があふれかえるようになったから、それで混乱する観客・視聴者もいなくなったということなのかな。

それから、唐突に何度も草木がインサートされるのもどうかと思った。まぁ、主人公の祖父の兵士時代の酷い経験のフラッシュバックであることが明かされるんだけれど、ちょっと、しつこいように感じた。

そんなわけで編集面では色々と気になった面はあったが、監督デビュー作としては、しかも、アイドル女優的扱いだった人の作品としては及第点以上なのではないかと思う。

そういえば、主人公の祖父が戦時中、敵国の人と仲良く写真を撮っていたというエピソードがあったが、それを聞いて自分の祖父のことを思い出してしまった。
直接、祖父から聞いたわけではないが(自分が小学校に入学した頃にがんにかかり、ほとんど話す機会がなくなってしまったため)、祖母はよく祖父が戦地で中国人に“シーサン(先生)”と呼ばれ尊敬されていたって嬉しそうに話していたんだよね。

でも、中国語の“先生”って、英語の“ミスター”、日本語の“さん”だからね…。日本語の“先生”の意味はないんだよね…。でも、あまりも誇らしげに話すから、結局、祖母が死ぬまでの間にその事実を伝えることはできなかった…。

ところで本作はWOWOWの企画「アクターズ・ショート・フィルム」の第3弾として発表されたものだ。コンセプトはその名の通り、俳優が監督を務めた短編映画なのでそのことについての言及はこれ以上は避けておく。
でも、一つ気になることがあるので言っておく。第2弾の時は全5作まとめてオムニバス映画のような雰囲気で劇場上映したのに、今回は1作品ごとにバラバラの上映となったのは何故?
前回の観客動員が悪かったのかな?だから、まとめて一般公開するということはせずに、それぞれの作品ごとに熱心なファンが集まる舞台挨拶付きの上映だけをしようという方針にしたのだろうか。

まぁ、日本って映画業界も映画ファンも短編を格下に見ているところがあるのも事実だから短編映画集では動員が難しいしね。
映画好きの自分でも、本家のアカデミー賞にある短編系の3賞(実写・アニメーション・ドキュメンタリー)はいらないのではと思ってしまうくらいだしね。それに日本アカデミーの方には短編系の賞はないし、キネマ旬報のベスト・テンだって文化映画(国産ドキュメンタリー)のカテゴリーはあるのに短編はないからね。

というか、短編を見るのって実は結構疲れるんだよね。ディズニー映画の併映作品のような10分あるかないかのような作品だろうと、マイケル・ジャクソンが作っていたショート・フィルムを名乗る長尺MV(MVとしては長尺という意味)だろうと、本作のような30分前後のドラマ作品だろうと、短編作品1本を見るのに使う労力(主に脳や目、耳)って長編映画1本を見るのと変わらないんだよね。
だから、5本まとめて上映されると長編5本見たくらいの疲労感が押し寄せてくる。なので、単独で上映するというのは個人的にはありがたいやり方だとは思う。

イベント自体についても語っておこう。
本編はWOWOWでの放送時についていたオンデマンド配信の告知などを除いてそのまま上映しただけのものだ。この作品はフィクションですというドラマ作品につけられるお断りもそのまま入っている。
WOWOW放送版との違いは最後に映倫マークがつけられていたことくらいだろうか。映倫マークがついているということは本作は単なるテレビ放送や配信用の作品を映画館で上映しただけの有料試写会ではなく、きちんとした映画の上映会だということなのだろう。

ただ、本編の後に今回のアクターズ・ショート・フィルム3に関わった5人のインタビュー映像番組をダラダラと流すのはどうかと思った。
いくら舞台挨拶付きとはいえ、24分の短編映画1本だけで2100円もの入場料(手数料を除く)を取るのはぼったくりだと思われてしまうと懸念したのかも知れないが、でも、作品ごとに個別に上映しているのだから、この回では見ることができない他の4本のメイキングや監督インタビューは不要だと思う。本作に関する部分だけ抜き出しての上映で良かったのでは?まぁ、再編集するのが面倒なんだろうね。

とりあえず、こういう上映イベントだと何のアナウンスもないまま、いきなり上映が始まることも多く、うっかり冒頭の数秒を見逃してしまうこともあるけれど、今回のように頭にNO MORE映画泥棒のCMを流してくれると、意識的に鑑賞に臨むモードに入れるからいいよねとは思った。

それから、登壇者の間にアクリル板を置かず、司会がマスクをしない舞台挨拶って久しぶりに見たな…。WOWOWの基準がノーマスク論者寄りだからなのか、政府がノーマスク寄りの姿勢になったのだから日本映画界全体のスタンスとして舞台挨拶のアクリル板や司会のマスクはいらないでしょという統一見解になったのかは知らないが…。

とりあえず、土屋太鳳が単なるお飾り監督ではなくきちんと自分の意見を持ってこのプロジェクトに関わっていたんだということは舞台挨拶でなんとなく読み取れた。
登場人物の命名理由に関する説明でちょっと答える際に戸惑ったのは質問が悪かったってことなのかな?そこだけは気になった。

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