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日本映画製作者連盟 興収10億円以上番組発表

映画の興行成績に関する年間チャートというのは複数あるが、もっともオフィシャルなものは年が明けてから発表される映連(日本映画製作者連盟)のランキングとされている。
ただ、このランキングが必ずしも正確にその年のトレンドを反映しているかというと、そうではないというのが現状だ。

その最たる理由が正月映画の扱いだ。

1月から12月までというカレンダーイヤーで区切るにしろ、たとえば前年12月からその年の11月のような年度で区切るにしろ、対象期間の締めギリギリに公開された作品というのは、本来なら複数年(年度)の年間チャートの集計対象になるのが普通だ。

でも、映連の年間チャートでは原則、同一作品が複数年の年間チャートにランクインすることはない。1997年度は「スター・ウォーズ」シリーズ旧3部作の特別篇がランクインしたが、あれはリバイバル上映だし、オリジナル版に手を加えた作品だしということで、続映作品とは別扱いになったのだと思う。

12月公開作品が1月になった途端、上映が終了されることはまずありえない。あまりにも入りが悪くて、年を越す前に打ち切られてしまう作品はあるが、12月31日きっかりで上映終了するなんてことはまずない。

正月映画という言葉は、シネコン時代になって極端な閑散期というのがなくなったことから死語になったとは思うが、それでも、年末公開作品というのは、クリスマスから正月にかけてのお祭りムードな気分の時に見てもらうという作品が多いのは、正月映画という言葉が現役だった時代から変わらない。だから、12月31日をもって上映終了なんてありえないわけだ。

そもそも、映画館は営業していても、配給会社や宣伝会社の人間は年末年始の休みを取っているから、一部の例外作品を除けば、12月最終週や1月初週の公開作品というのはミニシアター系を除けば少ないのが慣例だ。

もっとも今シーズンは12月30日にテレビドラマ「99.9」の劇場版、1月1日にテレビアニメ「Bang Dream!」の劇場版が公開されたりしているので、シネコン時代になって、尚更、正月映画という概念は消えつつはあるが。

話は戻るが、カレンダーイヤーで集計すると、正月映画はどうしても複数年にまたがることになってしまう。
たとえば、2021年の年末に公開されたある作品が最終的には興収15億円を超えたとしよう。
そして、その作品は2021年のうちには興収8億円。年が明けてから7億円を稼いだとしよう。
映連の年間チャートでは興収10億円以上の番組(2本立ての作品は2本で1番組とカウントするシステム)のみを発表しているので、カレンダーイヤーで集計するとなると、2021年分も2022年分もチャート圏外となってしまう。

でも、集計対象期間を前年末からにすれば、興収15億円全てがカウントされ、ヒット作品としてランクインすることができる。
2021年に8億円、2022年に7億円の興収をあげた作品の配給会社と呼ばれるよりかは、2021年度に興収15億円のヒット作を生み出した配給会社と呼ばれた方が数字を大きく見せることができるので、映連の発表する年間チャートはカレンダーイヤーでなく、年度で集計することにしているのは間違いない。

なので、映連の年間チャートは粉飾決算そのものなんだよね。

しかも、正月映画の扱いも決まっていない。
地方や郊外では一足先にシネコン時代に入っていた90年代後半あたりから、正月映画が11月公開になることも増えたが、この11月公開正月映画の映連年間チャートにおける扱いも配給会社の都合のいいように解釈されている。

2019年度の年間チャートなんて、2018年11月公開の「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」と2019年11月公開の「アナと雪の女王2」の両方がランクインしている。どちらも言うまでもなく年越し興行された作品だ。
さらに、「アナ雪2」の配給ディズニーは、同じシーズンの正月映画として、「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」も2019年12月に公開していて、このシーズンの年末年始の興行を盛り上げている。

なのに、「アナ雪2」は2019年度作品、「SW」は2020なっているなっているのは納得がいかない。ディズニーが2年連続で洋画の興収年間チャートで首位を獲得するために、このような策を取ったとしか思えない。
要は配給会社がこれは○年度作品と主張すれば、その通りになってしまうということなのだろう。これのどこが、映画業界の現状をリアルにあらわしたデータなのだろうか?

また、配給会社だけでなく、大手芸能事務所の言いなりになっている部分もあるように思う。

通常、こうした映画業界の発表する数値では、ODSと呼ばれるコンサートや演劇を収録した映像作品は映画扱いされず除外されることが多いが、今回発表されたランキングでは「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」、「滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie」と2本のODS作品がランクインしている。いずれもジャニーズ作品だ。

高額の入場料金が設定されている作品なので、通常の入場料金であれば、興収は半分程度になっていたはずだ。滝沢歌舞伎に関しては若いファンが多いSnow Manが主演だからもしかすると、半分以下かも知れない。

おそらく、アニメと並んでジャニーズがコロナ禍の危機的な状況を救ってくれたというアピールなのだろうが、これまでのODS作品やイベント上映作品に対する方針とは矛盾しているだけにジャニーズ忖度と言われても仕方ないと思う。

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しかも、嵐の方の作品は一般公開は11月下旬だ。
11月上旬にドルビーシネマでの先行上映は行われていたが、一般公開基準でみれば、通常の映連の年間チャートなら2022年度扱いになってもおかしくない作品を2021年度作品として集計しているというのは明らかに、この作品の数字を組み込むことにより日本映画界の復活をアピールしたいという戦略ではないかと思う。

作品の内容自体も映画と言っていいのかどうかという気がする。
滝沢歌舞伎の方はまだ、パフォーマンス・シーン以外のイメージ映像とか、時代劇のようなパートとかがあるので、かろうじて映画と呼んでもいいかもしれないが、嵐の方は完全にライブDVDだ。

舞台裏とか、メンバーのインタビューなどドキュメンタリー要素が含まれていれば、あるいは、メタリカの「スルー・ザ・ネヴァー」のように、ライブ・パフォーマンスと並行してドラマ・パートが展開されていれば、映画と呼んでもいいが、この作品にはこうしたものがない。せいぜい、開演時間の世界各地の街並みが映されるくらいだ。

これをわざわざ、映画扱いにしたというのは、それだけ、ジャニオタに媚びないと、映画興行が成立しないレベルになっているということなんだろうと思う。確かに、このODS2作品以外にも、木村拓哉や岡田准一などジャニーズメンバーの主演作品が興収10億円を記録している。

結局、アニメ、ジャニーズ、テレビドラマやテレビアニメの劇場版、こうしたものがヒットしているおかげで、邦画の興収はコロナ前の2019年の90%まで復活できているのだとは思う。 

でも、テレビドラマやテレビアニメの劇場版、その他のジャニーズ映画はともかく、嵐のライブを映画と扱うのはなんだかなという気がするのが、映画ファン、少なくともシネフィルと呼ばれる人たちの大半の正直な心情だと思う。

そして、こうした本音をもらす映画ファンに対してジャニオタが攻撃してくるのも映画ファンがジャニーズ映画を毛嫌いしてしまう要因なのではないかと思う。

何しろ、ジャニオタには、ストーンズという呼称はSixTONESのものだから、ザ・ローリング・ストーンズをストーンズと略すなとロック・ファンに言うような人も多いからね。
自分たちのルールが全て正義なんだろうね。ジャニーズ事務所も、ジャニーズ所属タレントも、ジャニオタも。

まぁ、ここまでジャニーズにおんぶに抱っこになっていれば、映画興行界はジャニーズの言いなりになるよね。

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あと、アニメの強さが目立つ。首位の「シン・エヴァンゲリオン」を含む年間トップ3は全てアニメだからね…。

だから、尚更、固定ファンが必ず見てくれるジャニーズ主演作品は実写邦画の復活をアピールするには必要となり、内容問わず映画扱いにしようってことになるんだろうね。

しかも、この嵐の映画をカウントしなければ、実写邦画トップは外資系ワーナーの「東京リベンジャーズ」で、その次もワーナーの「るろうに剣心 最終章 The Final」となる。さらに、独立系の東京テアトル作品「花束みたいな恋をした」も上位に入っている。

東宝・東映・松竹の大手3社の作品が邦画実写トップでないと示しがつかないみたいなところもあるから、松竹配給の嵐を首位にしたい。でも、嵐だけをランクインさせると不自然だから、同じタイプの滝沢歌舞伎とともに映画扱いにして、嵐を実写邦画首位にしたってことなのかな?

それにしても、洋画は見られなくなってしまったな…。シェアはかろうじて20%を超えている程度だからね…。

年間チャートを興収発表にした2000年以降で最低なのは勿論だが、配収発表時代を含めても圧倒的に低いシェアだと思う。
きちんとしたデータなんて残っていないけれど、敵国米英の文化が排除され、ドイツなど一部の外国映画しか上映されなかった第二次世界大戦中以来のシェアの低さなんじやないかなという気がする。というか、この頃はそもそも、公開本数自体少ないと思われるから、下手するとシェアは今の方が低かったりするかもしれないな…。

そして、もう一つ驚いたことがある。邦画、洋画問わず公開作品が前年度より減っていることだ。

映画ファンの体感としては、昨年度はとてつもない公開ラッシュ状態だったように感じている。

コロナ禍になって映画の公開スケジュールが変更されることは当たり前のようになっている。

去年の緊急事態宣言時に、都知事の小池百合子が、“コンサートや演劇の開催はOK”なのに、“映画館の営業はNG”という意味不明な制限をしたが(逆なら理解できる)、これに対しては、映画業界関係者や映画ファンのみならず、一般からも批判の声が上がった。

そして、それ以降、小池はエンタメ系への制限は控えるようになってしまったので、映画の公開スケジュールの変更は一時期に比べるとだいぶ減ったようには思う。

ハリウッド作品のように、欧米の感染状況で公開日程が変更されるものは相変わらず、スケジュール変更があるが、邦画やミニシアター系洋画の公開スケジュールはほとんど変わらなくなった。

それでも、元々この時期に公開予定だった作品と、コロナの影響で公開日がリスケジュールされた作品が同時期に公開されるので、映画ファンとしては、とてもではないが見たい作品の全てどころか半分も追い切れない状態になっている。

しかも、去年は2020年春のように全国のほぼ全ての映画館が休業になったわけではなく、休業となったのは、東京や大阪など一部の地域のみだった。そして、これらの地域でも商業施設に入っていないミニシアターなどは営業を続けていたりもした。
なので、映画館の営業が休止されていない地域では先行して予定通り公開されるパターンも多かった。こうした地方先行公開作品は、東京や大阪などでは営業制限が解除されてからの上映となるので、当然、スクリーンの奪い合い状態は加速した。

なのに、公開本数は減っている。
しかも、国内要因より海外要因で公開日程が変更されるケースが目立つ洋画のみならず、邦画まで公開本数が減っている。

となると、劇場公開作品という箔をつけるためだけに、1日1回だけひっそりと上映されるような作品(レイトショーだけでなく、特集上映的なものも含む)が減っているということくらいしか理由は思いつかないんだよね。

少なくとも、シネコンレベルではかなりの公開ラッシュだからね。1週目の時点で既に上映回数が少ない作品だって多いしね。

それはさておき、洋画の復活は無理だろうね。

コロナ禍に入る前から

●日本人が海外文化に対する興味を失っている

●過度のポリコレで不自然な作品が増えた

などの理由で洋画を見る人が減っていた。

そこへ来て、コロナ禍に入り、何度も公開スケジュールが変更されるたびに、その作品に対する興味が失せてしまうと同時に、多くのハリウッド作品が似たような状況となったことから、ハリウッド映画自体への興味が失せてしまったというのはあると思う。

さらに、ディズニーを中心に、ハリウッドの映画会社が配信シフトになってしまい、映画館で上映することよりも自社配信サービスへ誘導することに注力するようになってしまった。

日本の映画館としては、別にハリウッド映画がなくても営業は続けられるので(他にこういうことができるのは韓国、中国、インド、フランスくらいかな?)、配信会社となったハリウッドの映画会社に協力する気がなくなり、十分なプロモーションがされなくなってしまい、一般の観客が作品の存在を知らないケースが増えているのだと思う。

また、配信シフトに伴って、大作であるにもかかわらず、配信で見た方がいいかもと思われる作品が増えたのも洋画離れを加速させているのだと思う。

上映時間が長い作品が増えたのは、配信で見る人には、一気に見ないで、何回かにわけて見る人が多いことを意識しているのだと思う。
分割して3回にわけて見れば、トータルで見たのは1回でも、再生回数は3回にできるから、映画会社としても人気アピールに使えるわけだしね。

あと、内容も金がかかっている割には大作感がない作品が増えた気がする。絵面的には大作なんだけれど、話がドラマっぽいんだよね。やっぱり、配信で見ることを意識した作り方になっているんだと思う。だから、コアな映画ファンからすれば、わざわざ映画館で見なくてもいいかってなってしまうのでは?

まぁ、最大の要因は家族連れやカップルなどライト層の観客が多数だったディズニー映画が劇場公開に力を入れなくなったことが大きいよね。

2011年度から20年度までの10年間でみれば、このうち6回がディズニー配給作品が洋画トップに立った年だったし、19年度なんかは洋画トップ10のうち6本がディズニー配給作品、しかも、1位から4位までを独占した上に、トップ3入りした作品は全て興収100億円を超えていたからね。

これだけのシェアを誇っていたものが映画館から敬遠されるようになり、ライト層は配信で見るようになったわけだから、そりゃ、洋画のシェアは減少するわけだよね。

仮にコロナ禍が収束したとしても、ハリウッドの配信シフトは変わることはないと思うので、かつてのような洋高邦低状態に戻ることは二度とないと思う。

Billboard JAPANの年間チャートを見ると、K-POPを除いた洋楽のシェアは1%程度という驚くほど低い水準になっている。しかも、アルバムですらそんな状況だ。というか年間チャートにランクインした作品数で言えば、洋楽アルバムは実質ゼロだ。
十数年前までは20%程度と言われていたものが、今はこのようになっているわけだから、洋画だって、こうなる可能性は十分にあると思う。

もしかしたら、十数年後には、ハリウッド映画というのはOVAのイベント上映的な感じの上映のされ方になってしまい、一般公開される洋画はミニシアター系作品のみって感じになってしまうのではないかという気すらしてくる。

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