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Designing is Givingー私がデザインすることを手にした頃の話

私が、デザインを学び始めたのは、大学2年生。
今から10年以上前の話になります。専修大学ネットワーク情報学部にてコンテンツデザインコースを選択しデザインの世界へ足を踏み入れたのでした。挑戦的なプログラムづくりや先進的な教育で学生に歩み寄ってくださる先生が多かったように思います。

当時、デザインのデの字も知らなかった私にデザインを教えてくださったのが上平崇仁先生でした。私がますますデザインにのめり込むきっかけになったのは、上平先生が設計されていたデザイン演習がきっかけでした。
ある企業との産学連携で、チームで取り組むグループワーク。当時は教育現場でも珍しかったHCD(Human Centered Design)を取り入れたプログラムで、HCDデザインプロセスに基づき、最終的にはFlashを使ったプロトタイプを作るというものでした。テーマは自分たちのような学生がターゲットユーザでどうしたら文庫が活性化するかというお題でした。ここで得た小さな成功体験は、デザインすることの喜びやデザインには世界が前進していく力があると確信した体験でした。(当時の演習の様子は「情報デザインの教室」にも取り組みが掲載されています。)

「デザインすること」に魅了され、ずっと何かをデザインし続けていたいと思っていた矢先に訪れた就職活動。私は大手メーカーのデザイン部にUIデザイナー職として応募することにしました。研究室のプリンターを先生に家まで運んでもらってギリギリまで粘って夜な夜な印刷し、明方に大きなポートフォリオを大切に抱えて都心の郵便局まで出しに行ったのも良い思い出です。しかし健闘虚しくその会社には玉砕し、院試の数ヶ月前に行き当たりばったりで勉強を始めました。上平先生は親身に相談に乗ってくださったり、口頭試問のレジュメを真っ赤になるまでチェックしてくださいました。第一志望の大学院の合格発表は上平研究室の合宿当日。結果が速達で来るので私は自宅で待機していたのですが、真っ先に喜びの電話を入れたのも上平先生でした。

そんな恩師の上平先生が先日書籍を出版されました。
『コ・デザイン──デザインすることをみんなの手に』 上平崇仁 著

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手に取った瞬間、なんて上平先生らしい書籍なんだろうと思いました。
難しいことを難しくなく、誰にでもわかる言葉でデザインの価値を綴り、デザインを閉じたものとしない。デザインの力を信じる誰でもみんながデザインに参加する余地があり、デザインすることを手にできると書かれています。

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著者メッセージ
ちょっと変わった切り口のデザインの本を書いてみました。デザインを学ぶための書籍はたくさん出版されていますが、通常はデザインの〈すぐれた実例〉や〈やり方のお手本〉に焦点を当てるものです。この本は全く逆です。私たちの生活の中に当たり前のようにある出来事をつなぎ直し、なんとなく知っていることやどこかに置き忘れていることを改めて発見する、そんな関係性を通してデザインを理解しようとするものです。
 「コ・デザイン」という取り組みを知るだけでなく、「いっしょに」「デザインすること」は、どんな意味を持つのか。なぜ今の時代に取り組む必要があるのか。これまでデザインの文脈の中ではほとんど語られなかった領域とつなげて考えていくことで、めくるめく不思議な読書体験ができるでしょう。そして、私たち自身がなにかをデザインする行為は、そんな全体性の中にあることにも気づかされるでしょう。いますぐ使える知識のためではなく、前後左右を見渡しながらゆっくり考える旅をしてみたい人に、是非おすすめしたいと思います。

著者メッセージなどの引用元

私は大学院に進学するにも、デザイナーでない方が私のやりたいデザインはできると意気込んでしばらく総合職で働きました。社会の中でのデザインのプレゼンスの低さに驚きながらも「デザインすることはデザイナーだけではない。デザインはデザイナーだけのものではない。デザイナーじゃなくてもデザインはできる」という思想は私の中にあり続けました。そうこうしている間に、私はデザイン会社にたどり着き、「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、デザインの価値を広く報じ、デザインをする人を社会に増やす仕事をしています。

2018年の「デザイン経営」宣言から2年が経ち、デザインの重要性は2020年行政にも及ぶほどになってきました。2021年はよりデザインがパブリックなものになっていくと思います。まさにコ・デザインの時代ですね。
この年末の読書シーズン、デザイナーにならないとデザインはできないのではないかと就職活動で思いつめる学生さんや、デザインに興味を持っているけどデザインって少し難しいなと感じている方。デザイナーとして様々な職種の人たちとパートナーとして働く方。幅広い方にぜひ手にとってほしいなと思い、勝手に応援noteをしたためてみました。
最後に書籍の中でもデザインに出会った頃の気持ちを思い出した印象的な一節をご紹介します。

デザインすることは、ギブすること。
デザインという名前がつく以前の社会では、何かを計画して実践することは、貨幣価値の獲得を目的とするよりも、もっと幅広い活動を含むものでした。
それは何かしらの活動を通して自分の力を用いてコミュニティに働きかけ、貢献していくことだったはずです。それはその結果に責任を持ってかかわっていこうとすることでもあります。
ここでデザインすることを職能ではなく、誰もが主体的に行う営為と位置づけ流ことでデザインの背後にある意味が浮かび上がってきます。すなわちデザインすることはギブすることであると。
デザインする行為をプレゼント(ギフト)に見立てること自体は、珍しいものではありません。真心を込めて相手にとって必要なことを考え、予算や手間暇という幾つかの制約の中で検討する。その上で最適なものを贈る。そう考えれば、たしかにデザインとプレゼントは似ています。しかし、繰り返してきたように、贈ることは決して「どんんあモノをあげるか」にとどまらず、自発的な行為までも含むことであり、同時に関係を生みだすモノです。デザインすることも単発の出来事ではなく、かかわりあいを起こす動きの中でとらえなければなりません。

Designing is Giving

私が先生から与えてもらった「デザインすること」が、この本によって一人でも多くの方が手にしますように。


上平先生もブログを書かれたようです。

出版社のnoteでは前書きが公開されていますので、ぜひ。


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