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「バカになれなかったメンバーズ」という投資家の痛烈な皮肉の意味が深かった話

「バカになれなかったメンバーズ」

 これはメンバーズが2006年に名証セントレックスに上場する前に、ロードショーと言って機関投資家向けに会社の説明をして評価をしてもらった時のフィードバックのコメントです。実はこの投資家は1990年代末~2000年頃のネットバブルの頃からメンバーズを知っていて注目してくれていたということでした。

 ネットバブルと言えば、楽天やサイバーエージェント、ライブドアなどのネット第一世代が上場して注目された時代ですが、実はその時代にはメンバーズもそれらの企業と同レベルに注目されていたらしい(私はその時代はまだ新卒で銀行に入りたてで、ネット業界など胡散臭いという目で見ていましたw)。社長の剣持もその時代を代表する起業家として朝まで生テレビなどメジャーなメディアに何度も登場していたようです。そして大きな資金調達をしてガンガンと新規事業投資をしながら、更なる事業拡大のための資金調達をすべく上場を目指していました。しかし上場目前にしてネットバブルが崩壊して上場が叶わず。資金調達の道を断たれたメンバーズは巨額の赤字を垂れ流していた新規事業を清算・売却するなどして一度身を縮め、どうにか危機を乗り越えた、という過去があります。

 冒頭のコメントをくれた投資家によれば、当時はサイバーエージェントよりよっぽどメンバーズを高く評価してくれていたらしい。しかしネットバブル崩壊前に上場して、バブル崩壊の大波を乗り越え順調に成長していったサイバーエージェントと、バブル崩壊の後遺症に苦しみながら6年後にどうにか再び上場にこぎつけたメンバーズとを対比して、メンバーズに低評価を付けつつ述べたのが冒頭のコメント。

 そのコメントについての当時の自分の理解は、
「難しいことやっていないで、サイバーみたいに簡単なことをバカになってやんなよ!」
というもの(ちなみに私はサイバーエージェントさんが簡単なことしかやってないなんて思ってませんし、とても尊敬しています)。ネット広告代理店業を収益の柱としてシンプルなモデルで成長していた当時のサイバーエージェントに対し、メンバーズは主に大企業向けのWeb制作、ネット広告販売、そしてさらに成長を高めるための新規事業をやっていたが、いずれも基本は大口向けで属人的なカスタマイズモデル。なので
クライアントのニーズはそんなに簡単じゃねーし、バカになってやれと言われたってできるわけない。簡単なことだったら誰だってできるじゃん」
と思っていました。そして上場前はそこそこいい感じで成長もしていたので一人の投資家から低い評価を受けようが、何となく引っかかるものはありつつも、あまり気にしていませんでした。
 しかしご想像の通り、結果としてはその投資家の評価の方が正しかったわけです。

自分たちの強みすらわかってないただのバカだった

 こちらの記事でも書いた通り、上場後2期連続赤字で倒産寸前にまで落ち込みました。

 直接の要因は、売上トップの2社(しかもその2社だけで売上の20%以上を占めていた!)を立て続けに失注したことです。しかも担当者を引き抜かれて。
 そりゃ20%以上の売上がなくなったら、大抵の会社は赤字になるでしょう。しかしそれでも僕らのサービスに本質的な強みがあれば、売上・利益は回復していくはずですが、なかなかその見込みが立たない。当時のメンバーズはWeb制作もネット広告もそれなりにやっていましたが、どちらも業界における特別な強みはなく、自社の強みは「Web制作もネット広告も両方やれる総合力」だなんて言っていましたが、その総合力が強みとして取れている案件なんて一つもない。部署は別だし、仲悪かったし。。
 つまりたまたまその2社との取引が調子よくて成長していただけで、その他を見たら普通のWeb制作会社と普通のネット広告代理店がくっついているだけ。その2社との取引を失って初めて、自分たちの会社に何の強みもないということに気が付きました。そんなことだから引き抜かれたんだろうとも思います。

僕らは何のバカなのか

 今だったらその投資家のコメントを私はこう理解します。
「自分たちが信じる大事なことにバカなくらい集中して圧倒的な強みを作るべし。」

 「選択と集中」という言い古されている経営戦略用語に近く聞こえるかもしれませんが、この言葉だと軽すぎる。何を選択してどれだけ集中するのかということを真剣に問うていない。普通に解釈されているのは自分たちの強みに経営資源を集中しろということだと思います。
 デジタルマーケティング市場は規模的にも大きな成長市場だし、参入障壁なんて何もないので、あらゆるところから大小さまざまな会社が非常に数多く参入してきます。たいていの人はそれでも相対的に自社の得意な領域をもって「自社の強みは技術力だ!」とか、何十社も同じことを言いそうなことを言います。それが当時のメンバーズの総合力なんてものと違って本当にある程度強みと言えるものであって、大きな成長市場の中において適切なマーケティングができれば生き残ること、もしくはある程度成長することはできるでしょう。しかしクライアントから見て数多くある技術力に強い会社の1社でしかない。その中でたまたま勝ったり負けたりを繰り返す。
 目指していることが一定の利益を上げて生き残ることであれば、これで良いと思います。しかし目指しているものがそうではなく、もっと強い成長、もっと大きな社会への貢献・インパクトなのであればこれでは足りない。

 PayPalの創業者で、シリコンバレーで大きな影響力を持つピーター・ティールが著書の中でヒントをくれます。

「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」
さすが、ピーター・ティールが言うとかっこいい。彼はこの著書の中で競争をするのではなく独占を目指せ、ということを強調しています。タイトルの通り起業がメインの話ですが、競争市場における戦い方として参考になります。
 また同様に競争戦略論のベストセラーのこちらからも少し拝借すると。

他社が合理的に考えれば真似をしない「一見して非合理な打ち手」というものが、戦略に組み込まれていることが非常に重要だと主張されています。一見して非合理と言っても、全体戦略の中では合理的で強力な打ち手というものなので、単に考えなしに適当にやればいいというものではありません。そうではなくて一回頭からねじを外してバカになって考えてみて着想し、実行する意思決定もバカになってこそできるのだと思います。なぜなら合理的ではなくて他社では絶対やらないことだから。

 賛成する人がほとんどいない、一見して非合理、つまり他から見ると「バカなんじゃないの?そんなの成功するわけないじゃん。」と思われるようなことに、どんな信念をもって集中をするのか、ということが重要だということです。
 ではメンバーズのそれは何なのか。あまりかっこ良く言ってもメンバーズらしくないので、もっと分かりやすく「僕らは何のバカなのか?」と問い直します。今の答えは以下です。

1.Web運用バカ
2.クリエイターの幸せバカ
3.CSV
(Creating Shared Value: 共有価値の創造)バカ

 次回以降でまた上の3つについてそれぞれ書いていこうと思います(どれから書くかは考え中)。最後までお読みいただきありがとうございました。

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