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第二十二回:最初は無料、あとから有料、そして値上げという価格戦略

連載の間隔が少し空いてしまいました。ここしばらく、ちょっと予定を詰め込みすぎて、あっぷあっぷになっていました。溺死するかと思ったほどです。続きをお待ちいただいていた方々、申し訳ありません。

とはいえ、もしこの連載が、誰かから原稿料をいただける形であれば、あるいは、ちょっと美味しいもの食べられるくらいの投げ銭が毎回いただけるような状態であれば、優先順位を跳ね上げ多少無理をしてでも原稿を仕上げていたことでしょう。

たとえば、私は先週の日曜日、38度の熱があるのに取材へ行って、その日のうちに原稿を仕上げるという無茶をやっています。つまりこの連載はまだ、前回の倉下さんがおっしゃっていた「趣味の域」であるがゆえに、無理をする対象にはなっていないのです。

低価格かつ低販売数、つまり薄利小売が当たり前になってしまえば、その行為は趣味の域を出なくなります。もちろん、趣味の出版が悪いと言っているわけではありません。そうしたものが本の文化を豊かにしていくことは間違いないでしょう。
しかし、その豊かさをもう一歩広げるためには、きちんと「稼げる」環境を作ることも必要です。
(「第二十一回:新しい値付けへ向けて」より)

とはいえ、のちのち本にして売ろうと考えているので、手を抜いているつもりはありません。毎回、結構な労力をかけて書いています。手を抜きたくないからこそ、時間に余裕ができるまで手をつけられなかったのだ、ということは申し添えておきます。

30分で2000字書けてしまうような速筆な人もいますが、私は準備段階を含め圧倒的に遅筆です。というか私は、速く書こうとすると、間違いなく中身が薄くなってしまいます。それは避けたいなと思うのです。

◇ ◇ ◇

さて、前回の倉下さんは、佐々木大輔さんの『僕らのネクロマンシー』(NUMABOOKS)の、ちょっと変わった価格設定について紹介していました。

電子書籍ではありませんが、2018年2月に佐々木大輔さんの『僕らのネクロマンシー』が発売になりました。一回の販売数が限定されており、回を重ねるごとに値段が上がっていくという異例の値段設定です。
(「第二十一回:新しい値付けへ向けて」より)

公式サイトによると、これ「少部数での出版活動を成立させるための実験を兼ねた試み」とあり、第5回販売までは完売していることがわかります。まだ現時点では8500円と、参考価格1万3500円よりだいぶ安いですが、当初の6000円よりだいぶ高くなっている感があります。

実は私も、似たような実験をやっています。『出版業界気になるニュースまとめ2016』の電子版は、初月のみ500円、翌月から1000円、2年目から1200円(いずれも税別)と徐々に値上げしました。500円は「発売記念価格」とし、翌月から1000円への値上げする旨は当初から宣言していました。

1年後に出版した『出版業界気になるニュースまとめ2017』は比較をするため、最初から1200円で価格を動かさない形にしてみました。結果はどうだったでしょう? 最初の3カ月の販売部数を比較してみました。

なんと3倍もの差がついています。では売上はどうか?

それでも約1.5倍の差があります。初月のみ安くしあとから値上げする価格戦略のほうが、価格を動かさない戦略より良い結果になりました。年は違いますが構成などはよく似ている本なので、再現性はありそうです。2018は2016と同じ戦略にしたいと思います。

なお、この『出版業界気になるニュースまとめ』はブログでずっと毎週書き続けている記事をまとめた本で、本にする前の記事はいまでも無料で読めるままになっています。パッケージ化する際の変更点は、並び順をトピックス別に変えてあるのと、縦書きにしてあるくらいです。裏を返せば、無料で読める連載を、あとからパッケージ化して有料販売しても、これくらい売ることは可能だということです。

この『出版業界気になるニュースまとめ』は、いつもブログを読んでくれている方々にとっては、すでに読んでいるはずの内容です。それでも、初月に買ってくれている方々の多くは恐らく、いつもブログを読んでくれている方々、いわばお得意様だと思います。つまり「あとから値上げする」ことをあらかじめ宣言しておくやり方は、自分のメッセージが届きやすいお得意様を優遇しますというメッセージに他なりません。あとから理由がはっきりしないセールをやるより、ずっと道理に叶っているように思います。

ちなみに2016の初月には、アマゾンのランキングBOTが動いていたのを確認しています。恐らくランキング入りしたことにより、いつもの読者以外の目にも届くようになった結果、売上が伸びたということなのでしょう。一度そうやって売れた本は、動きやすくなります。それが約1.5倍の差という結果に繋がったのだと私は考えています。

たぶん倉下さんも、こういう実験やっていると思うのですが……(チラッ)

倉下さんの原稿に続く


最後までお読みいただきありがとうございました。