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第二十三回:売上げグラフに電気ショックを

私は、二十代という多感な時期をコンビニで働いて過ごしてきたので、販売データには目がありません。特に、前回鷹野さんが公開してくださったような単品の販売データは大好物です。ご飯三杯はいけます。

たとえば、あのデータも「販売数では3倍以上も離れているのに、金額ベースだと1.5倍程度しか離れていない。トータルの金額では値段を変える方に軍配が上がったが、変えない戦略もそれはそれでありだな」なんてことを考えながら見ていました。

その一方で、「そうはいっても〈最初値引き〉戦略は、顧客に〈今〉買う動機づけを与えるものとしては強力だよな。値段がいつまでも変わらないということは、いつ買っても同じということで、今は買わなくてもいいってことになっちゃうし」という感想も出てきました。

こういうことをぐねんぐねんと考えるのは実に楽しいものです。

◇ ◇ ◇

さて、前回鷹野さんは以下のように話を振ってくださいましたが、

たぶん倉下さんも、こういう実験やっていると思うのですが……(チラッ)

そりゃもちろんやっています。なにせ冒頭のようなことを考える人間ですからね。

そもそも2014年の4月からスタートした「月くら」計画自体が、実験と言えます。デジタルボーンの電子書籍では、どのようなコンテンツが受けるのか。そのためにどんな本作りをすればいいのか。それをさぐるための壮大な実験です(おおげさ)。

※詳しくは以下の本をどうぞ。

とは言え、価格に関しては、あまり幅を持たせませんでした。最低が100円、最高が540円までの値段設定で、それより高いものは「月くら」計画では作っていません。なぜなら、

1. 高価格に見合う本作りには時間がかかる
2. 高い本は動きが鈍い(売れ行きが多くない)

が想定できるからです。

実験の初期段階において必要なのは、フィードバックです。それもたくさんのフィードバックです。あるものはよく動き、別のあるものは動かない。あるものはたくさん感想がもらえ、別のものはもらえない。そうしたさまざまな情報が得られるからこそ、その次に進んでいく指針が得られます。

高い値段の本作りからは、そうしたフィードバックを大量に得るのは難しいでしょう。よって「月くら」計画では、そこそこの値段の本を短期間に大量に作ることを目指しました。

逆に言えば、「月くら」計画が終了すれば上記のような制約は外しても構わないでしょうし、実際外そうと考えています。そう決断できたのは、共同で作ってる電子雑誌「かーそる」が、800円と少々高価であっても予想以上に売れたことにあります。

買いたいと思える本であれば、人は800円であっても(セルフパブリッシングの)電子書籍を買う。当たり前の話かもしれませんが、それでも希望のある話です。

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上記のように、「月くら」計画では値段設定の幅を狭くしていましたが、値段の変更についてもほとんど触っていません。主な理由は、実験中のパラメータをいじりたくなかったからですが、単に値段変更が面倒だったからという不精な理由も少しはあるかもしれません。

実は、当初の本に関しては、何度か無料セールを実施しています。リーチを拡げる効果が期待できますし、それによってレビューが増えたり、口コミが増えたりする可能性もあります。それが売上げに結びつくこともあるでしょう。しかし、途中から「これは何か違うな」と思って止めてしまいました。売り物を無料で配るのは、何かいびつな気がしたのです。

無料で読めるものは無料で読めるものとして準備しておき、有料で提供するものはきちんと有料で提供する。その線引きを、自分から崩さない方がよいのではないか──というのは単なる私の直感であって、何のデータ的裏付けもありませんので真に受けないでください。単に私のスタイル、というだけです。

とは言え、無料にしなくても、値段を下げる施策は使えます。そう、セールです。

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現在(2018年4月30日)、Amazonさんで「GWフェア ビジネス書50%OFF以上」が開催されており、そこで拙著(※)も値引き対象になっています。
※これはセルフパブリッシングではなく、出版社さん経由で発売されている本です。

で、その少し前にも『科学・テクノロジー本フェア』として似たようなラインナップがセール対象になっていました。4月6日から4月19日までのセールです。

さて、以下のグラフをご覧ください。対象になっている『Evernote「超」知的生産術』のランキンググラフです。

見事に4月6日からグラフが跳ね上がっています。もう「ぎゅん」という擬音語がぴったりの急上昇です。Amazonのランキングシステムは一冊でも売れるとこうやってグラフが上昇するのですが、その後も(多少)高い位置をキープしています。

これは別に自慢話をしたいわけではなく、この本が2011年2月に発売された本である、という点に注目して欲しいのです。

少しイメージしてください。今の日本の書店で、7年前に発売されたベストセラーでもない技術書(ノウハウ書)が急に販売数を跳ね上げる、ということが起こりうるでしょうか。そもそも棚に並んでいないことが大半でしょう。

電子書籍+セールの組み合わせはその環境を変えます。今にも亡くなりそうになっている人に電気ショックを与えた心電図と同じようなグラフを作れるのです。

それだけではありません。セルフパブリッシングの本でも、Amazonの月替わりセールに選ばれると、販売数がぎゅんと伸びます。以下は2018年の3月のセールに選ばれた『「目標」の研究』という本の販売数です。

やはり大きく伸びています。

ちなみにKindle Unlimitedでの既読ページ数も伸びていたので、単純な値引き効果だけでなく、セール対象になったことで露出が増えた効果も関係していると想定できます。

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とは言え、上の二つはAmazonの公式セールです。「だからじゃないの?」と思われるかもしれません。しかし、以下のように自発的に行ったセール(値段変更)でもやはり売上げは伸びました。

『ライフハック大全』発売記念!『Dr.Hack』を50%OFF

Amazon公式以外のセールでも動きはきちんとあります。

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セールには、たしかに売上げを作る効果があります。ただしそれは、「安くすれば売れる」とイコールではありません。

セールした本が売れるのは、セールした(≒セール対象になった)という事実が一つの話題となり、それが情報流通経路を駆け巡って、本と読者の出会いを生み出しているから、という点が大きいでしょう。値段が下がっていることは、「買う」判断の背中を押すちょっとした要素でしかないと私は思います。

セールは、埋もれているコンテンツを露出させ、新しい読者との出会いの場に引っ張り出す効果を持ちます。その力は、なるべくうまく使っていきたいところです。

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すごく乱暴にまとめれば、

動きを与え、話題を生み出すこと。

これが肝です。そして、これを実現できるのはセール施策だけではありません。新作を発表することも、「動きを与え、話題を生み出す」効果を持ちます。そして、おそらく他にもたくさんあります。

そういうことを、ぐねんぐねんと考えていくのが私には楽しくて仕方がありません。

鷹野さんはいかがでしょうか。

鷹野さんの原稿に続く)

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