【実話】 あそこの池は鬼火が飛ぶけんね
今日、久し振りに、昔、池だった場所のそばを通った。
その池は半分以上埋め立てられて、埋め立てた土地には、平成にマンションが建てられたのだけれど、ありがちな話で、昔そこには無縁仏の墓地があった。
そのマンションについてとやかく言うのではないけれど、まだ、昭和の時分、おそらく昭和四十年代後半か、行っていても昭和五十年代前半、祖母が生きていたころの事をふと思い出したのだ。
そのころ、池で、小学生が溺れて死んだ。
フェンスもあったし、立ち入り禁止の立て札もあった。
だが、それを乗り越えるのが小学生だ。
面識はなかった。
ただ、近所の噂にはなる。
子供が死んだとか、墓所だからとか、幽霊が出るかもしれないとか。
ご近所さんが来て、そんな益体もない話をつらつら話していたときに、祖母が、妙な平坦な、ごく普通の調子で
「あそこの池は鬼火が飛ぶけんね。」
と相槌を打ったのが、妙に耳に残っている。
草が伸びたねとか、今日は暑いね、とか、ごく普通の当然のことを話す語調で、確かその時思わず祖母を見たが、祖母の雑談の相手は私ではなく、話題は近所の噂話に移った。
私は当時既に足が悪くてほとんど外に出なかった祖母が、その池で実際に鬼火を見たことがあるかどうかさえ尋ね損ねた。
あの池には鬼火が飛ぶらしい。
見たことはないのだけれど。
埋め立てられた後の分譲マンションの売り出し価格は、その近辺の相場よりもおよそ二割は安かった。
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