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散文詩

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そのまま。もうちょっと若いころ(十数年前)書き散らした散文詩です。短歌の収納は今後考えます…。
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2020年12月の記事一覧

冬が来る

今年は

春も
夏も
秋も

無かった

ただ冬だけが来る



そんな年だった

滅多にない

ようでいつか聞いた

はるか昭和の初め
今は老いた母の
小さな弟は

予防接種など胡散臭いものは長男には受けさせぬと言われて
ジフテリアで
死んだと聞いた


冬が来る

高梨
3年前
18

その男の訃報が
同期の間を駆け巡ったとき
そいつはまだ三十五歳で
突然心臓が止まったと聞いた
つまりは心臓発作

誰も言わないが
誰もが思っていた
過労だと

そいつは研修の同期で
優秀賞で
反りが合わずに
罵り合ってばかりいた

真面目な奴だった

人生を生き延びることの僥倖

高梨
3年前
32

冬の朝

ひょいと首出す

ひんやりと

底冷えのする朝ぼらけ

ひゃっと戻りておそるおそる

再度首出す冬の朝

到底ここから出たくない

一生ぬくぬくしていたい

オフトゥーン国は我が故郷

いっそここに永住したい

お布団恋しい冬の朝

ぬくぬく
ほこほこ
過ごしたい

高梨
3年前
21

明治生まれの
亡き祖母は

私が物心ついたとき

既に足が悪かった

いざって移動して

台所の冷蔵庫も遠過ぎた

孫が大好きで

いつも

樹脂の箱に

食べ物を入れてた



黒棒

黒棒はもう食べ飽きたけれど

祖母には言えなかった

おばあちゃん

ぬるい桃でもいいから

高梨
3年前
21


庭に
オレンジ色の躑躅があった
そんな色の躑躅を
よそで見たことがなくて
親に聞いた
「どうだんつつじだよ」
大人になって調べた
ドウダンツツジは白い花で
どうやら間違い
いまだに真の名が分からない
いつの間にか枯れた
木に寿命があることを初めて知った
あの木が好きだった

高梨
3年前
18