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段ボール価格から見る米中貿易摩擦

BSテレ東の朝の情報番組、日経モーニングプラスのコーナー「値段の方程式」。今朝のテーマは「段ボール」でした。
段ボールって、普段あまり値段を目にすることは少ないですね。引っ越しなんかでは、タダでもらえるようなイメージがあります。値段について気にならない人が多いかもしれません。でも食品から電化製品、工業部品といった、ほとんどの商品が配送の際に段ボール箱に入れられて運ばれます。様々なモノの輸送費の一部として、 いろんなものにかかわってくる重要な値段なんです。 

ゴミを出す際、 段ボールは通常の燃えるゴミとは仕分けするようになっていると思います。基本的に段ボールは使用済みの段ボールをリサイクルして作られます。 

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流通の仕組みはこうです。家庭や企業で使った段ボールを古紙回収業者が集めます。回収業者が集めた古紙は古紙問屋に運び込まれます。ここで選別した後、製紙会社に売られます。製紙会社は、その古紙を原料として新しい段ボールを作って販売するという流れです。
段ボール製造大手のレンゴーの場合、 段ボールは98%がリサイクル原料だそうです。

段ボールの値段についてですが、 日本経済新聞の記者がその動向を見ているのは、まず原料となる段ボール古紙の価格。古紙問屋が回収業者から買い入れる値段です。
値段の推移を見てみましょう。段ボール古紙の価格は2018年春は1キロ当たり9~11円程度でした。8月から不足感が強まり11月には10~14円まで上昇しました。中心値で比較すると2割高くなりました。
急激な値上がりの大きな原因は米中の貿易摩擦です。中国ではアリババに代表されるネット通販産業が拡大中です。商品の輸送・梱包に使う段ボールの需要が大きくなっているわけです。実は中国は段ボールの原料である、段ボール古紙を米国から大量に輸入していました。それが貿易摩擦を契機に、米国への報復関税として昨年8月から 米国産段ボール古紙に25%の関税をかけることになりました。代替品として中国の業者が目を付けたのが、日本の古紙です。「関税がかかるなら米国より日本から輸入した方が安い」ということで、 爆買いしたわけです。

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その結果、日本国内の段ボール古紙が少なくなり、 値上がりしてしまいました。 原料の古紙の値上がりを反映して、製品である段ボールの値段も上がりました。

ところが、今年に入り急に値下がりしているんです。どうしたんでしょうか?

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じつはこれも中国の影響です。中国の景気減速で段ボール需要が落ち込んでいます。 さらに中国政府が同国の製紙各社に割り振っている輸入ライセンス枠を縮小したことも重なっています。国外からの廃棄物が環境汚染につながっているとの判断が背景にあるようです。

きょうの値段の方程式はこうなります。

段ボールの値段は中国の古紙輸入量で決まる

段ボールの値段は中国の古紙輸入量で決まる王子製紙やレンゴーなど国内製紙各社は 年間数百万トンの古紙を原料として使います。 調達価格が1キロ当たり1円上がると 単純計算で年間数十億円のコスト増となります。中国がどのような形でどれだけ輸入するかで、 日本国内の古紙相場や製紙各社の業績は左右されます。
今年の春、飲料や菓子などの食品値上げが相次ぎましたが、段ボールの値上がりもその理由の一つです。いろんなものの値上がりにもつながるので段ボール価格から目が離せませんね。

キャスターの天明麻衣子さんから「段ボールを使っている企業は対策をとらないんですか」と質問が出ました。
段ボールを使う企業は価格が上がると困るので、対策に乗り出すところも出始めています。キリンホールディングスは自社で使った段ボール古紙を国内で循環させる取り組みを始めました。具体的には古紙回収業者に対し輸出しないよう求めます。これによって国内で古紙を循環させ不足を解消し価格を安定させる狙いです。

番組の終盤、コメンテーターの豊嶋広さんから「廃プラスチックの対中輸出も最近、中国の環境規制強化で行き場を失っていると聞きますね。日本は世界でも有数のリサイクル大国だと思っていましたが、最近は中国次第になっているんですね」との感想をいただきました。確かにペットボトルなど廃プラの対中輸出も滞っています。日本の古紙の場合、回収量の2割が輸出されています。キリンHDの取り組みのように今後は、資源を国内でうまく循環させる仕組み作りが課題になってくると思います。
最後にキャスターの八木ひとみさんからは「代替品ってないんですか」との質問も。約150年前に英国で発明された段ボール。軽くて強度が高い、しかも安価な素材は現在でもなかなか登場していません。それくらい優れた素材ということですね。

米中貿易摩擦が発端となった段ボールの極端な値動き。世界情勢が思わぬモノやサービスの値段に影響を与えています。逆にいえば身近な商品の値動きから国際政治や経済情勢が見通せるのも、価格を取材したり分析したりする、だいご味といえます。


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