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アナログだから味がある 話題の立ち飲みマップの製作者に会ってきた

東京都内でどんどん増えている立ち飲み(呑み)屋。手ごろな値段でお酒とつまみが楽しめるのが魅力です。節約しながら気軽なコミュニケーションができるため、若い人にも人気で女性客も増えているとか。その立ち飲みファンの間でひそかな話題になっている手作りのマップがあります。「立ち呑み処 巡礼 パラダイスマップ」と名付けられたA3サイズの紙には立ち飲み屋の店名と評価が最寄りの鉄道の駅ごとにびっしりと書かれています。
2月現在、関東編が516軒、関西編が159軒。アナログなつくりですが、分かりやすく、どこか懐かしい。「いったいどんな人が作ったのだろう」。製作者の松尾博さんを訪ねて話を聞いてきました。

松尾さんは現在、70歳。グラフィックデザイナーとして都内のレコード会社で働いています。レコードのジャケットのデザインがやりたくて、1971年に大手のポリドールレコード(現在のユニバーサル ミュージック)に入社。井上陽水さんの大ヒットを記録したアルバム「氷の世界」(1973年発売)のジャケットも松尾さんがデザインを担当したそうです。
1999年に独立しました。会社員時代は周囲の人と連れ立って飲みにいっていましたが、フリーになり一緒にいく機会が減ったそう。「立ち飲み屋は一人でも入りやすく、なんとなく、はまっていった」(松尾さん)
マップは2003年ごろから作り始め、最初の掲載店は50店だったそうです。必ず自分で足を運んで味や雰囲気を確かめて1店、1店記録していきました。ドリンク2杯、つまみ2品でお会計が1000円程度に収まる、いわゆる「せんべろ」のお店が対象です。
立ち飲み屋めぐりはほぼ毎日。仕事の打ち合わせは夕方を多くしています。事前にネットで、訪問したことがない店を調べておきます。打ち合わせが終わってから新しい店へ向かう。先に楽しいことが待っているとなると、仕事もはかどりそうですね。新しく2、3店増えるたびにマップを更新していきます。ちなみに松尾さんは焼酎のソーダ割を好み、つまみにはお刺身をチョイスするそうです。
評価は特A(価格・ツマミ・店の雰囲気とも納得できる店)からDクラス(価格・ツマミ・店の雰囲気がどれも×で、もう行きたくない店)まで5段階。松尾さんが「優良店」と評するのは特Aは3店あります(営業中は2店)。

「立ち呑み処 巡礼 パラダイスマップ」(関東編)
特Aクラス(優良店)(カッコ内は最寄り駅)
・いこい(赤羽)
・ニューカヤバ(茅場町)
・富士屋本店(渋谷、2018年10月に閉店)

*Aクラスは6店、Bクラスは34店、Cクラスは117店、Dクラスは2店

評価のポイントは雰囲気とお店の人の対応だそうですが、あくまでも松尾さんの独断で判断したものです。もし、あなたがお立ち寄りの立ち飲み屋でこのマップをみかけたら、ご自身の評価と比べるのも面白いかもしれませんね。

取材の途中、松尾さんは昨年の10月に撮影したという熊本市の古賀酒店を訪問した時の写真を取り出しました。

2016年に発生した熊本地震。当時、熊本に滞在していた松尾さんは二泊三日の予定でしたが、交通網の混乱でスケジュールが大幅に狂いました。行くお店も交通手段もなかった。電話したら「小さな店ですが片付けながらやっています」とのこと。熊本滞在中に歩いて毎日通ったという。「以来、毎年行くようにしているんです」。熊本のお店も収録している関西編には大阪はもとより北海道から沖縄まで159軒が掲載されています。

立ち飲みの魅力とはなんでしょう。
「立ち飲みって、境がないじゃないですか。自分と隣のお客さんとの。席も横にずれたりできるし、居酒屋に比べ話しかけやすい。お店の人とのコミュニケーションもとりやすい」と松尾さんは答えます。年配の方の話を聞くと結構、雑学の勉強にもなるとも。

立ち飲みブームは続いています。都内でも新店が続々オープンしています。関東編はだんだん、書き込むスペースがなくなってきました。文字を小さくしたり、字の横幅を縮める「長体」をかけたりして対応してきましたが、これ以上、情報を詰め込むのが難しそうなエリアも。松尾さんに「いつまで続けますか」と尋ねたら、「立って飲めなくなったらお酒をやめます」と笑っていました。ホームページなどデジタル化の予定もないそうです。

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